倒錯幻想/自己陶酔症




硝子細工で飾られた間接照明の昏い光に照らされた、黒を基調とした内装に家具、モノクロームのインテリアを主に赤や銀の小物で統一された室内。
琥珀色の瞳が鏡に映る。親譲りの人形じみた造りの顔には眼帯。左目にあてがわれたそれは十字の意匠が施されているが、伊達でつけているのではない。
この左眼は光を宿さず、蒼い瞳の義眼によって欠落を補っている。
鏡に映る病的に白い肌を中世的なデザインの黒いベストから覗く白いブラウス、黒いコルセットスカートが包んでいる。
この服装に包まれることで私は現実という枷を緩ませ、不可思議に沈み込むことができる。
そうして、不可思議で埋め尽くされることで、意識は那由他の果てへと至るのだ。
十字架を模したペーパーナイフは研ぎ澄まされていて、銀のはずのそれは照明によって黄金であるようにも見える。
手に取ると金属の冷たい感触が手から脳へと伝わってくる。痺れるような甘い感覚――。
手首を切る。流れる血。この瞬間に官能する。灼けるように熱い、小さな痛み。僅かに溢れる朱。
ゾクリ、とする。血のついた刃物を握る白い手。柔らかいものを切った、肉の感触が残ってる。
薄いピンクの舌を傷口に這わせる。錆びた鉄のような味に背徳を覚え、深く息をついた。
傷痕にかかる吐息は蕩けるほどに熱く、背筋を走り抜け、脳髄をも侵食していった。
真新しい包帯をそこに巻きつける。滲む血の赤が純粋な白を侵していくのを視て口元が緩む。
肉の感触、滲む赤、漂う血の匂い、ジクジクと痛み出す痛みは快感へと変わる。
部屋に漂う香の甘い香りと、口の中に残る血の匂いが、甘い血という錯覚を私に幻想させる。
昏い恍惚をともなう幻想と、倒錯した官能を含む痛覚のなかで、現実たりえぬ夢に溶け込んでいく。
――これは儀式。縫い繕えぬほど病んだ精神は、辛い現実より逃避し、陶酔することでのみ眼を瞑るのだから。


⇒太陽
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