その目に狂いがなかったって証明してやれなかった。
だからせめて強くなって、これからは護ると誓った。
厳しいことが辛いわけじゃなかった。
苦しいことが辛いわけじゃなかった。
肉体の痛みなんてどうだってよかった。
ただ寂寥の想いが辛かった。
ただ悔恨の記憶が辛かった。
悼む心だけが大きくなっていった。
その弱さに、俺は耐えることができなかった。
俺は俺自身の現実から逃げ出した。
俺は「これから」さえも逃げたのだ。
それに気付いた俺は・・・。










GS〜彼の追った夕陽〜
第6話 夢と修行と目覚め











変な夢を見た気がするけど、調子はすこぶるいい。
今日でもう修行に入って3週間になる。
1週間目が基礎の動き。
2週間目が技の組み立て。
そして今週からは組手稽古というわけだ。
今も小竜姫様に稽古をつけてもらっている。
ちなみに連絡の入れ方だが、なんと鬼門が人間のフリをして下山して直接伝えに行ったらしい。

『そなたの動きも大分マシになってきた。』

「でもやっぱり、小竜姫様は大分手加減してるんだろ?」

『当たり前だ。実力の2割も出しておらんわ。ほら、無駄口を叩いてる暇などないぞ。前だ、避けろ!』

小竜姫様の目にも止まらぬ突きを間一髪でかわす。
これで手加減してるって?俺でかわせるんだから当然か。

「だいぶかわせるようになってきましたね!」

確かに、突きの基本や蹴りの基本、剣の扱いの基本なんかをやってたときとは段違いだと思うけど。
それでも、三度に一度は当たってしまう。一割強の力でこんなに強いのか、小竜姫様は。



突きをかわすのと同時に突きを放つ。・・・もちろん胸に決まってる。

「な・・・早い!?」

俺の煩悩をなめるな!!!
他の部分はともかく、こういう部分を狙う速さは神をも超える・・・・・のかもしれない。
目標に命中する一瞬前に、小竜姫様の動きが急に速くなる。
畜生!!届け、夢の世界に!!!!

ゴキ!

「・・・かうんたー・・・。」

明らかに肋骨は折れたな。
ああ、意識が遠のく。
でもきっと明日までにヒーリングされてまた戦うんだろうな・・・・。
あれ?頭も打ったか?・・・酷い頭痛だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もっと強く、ならなきゃ。









夢の中で話している。
誰と・・・・・・・誰だ?

「でもそれには問題があります。
 ひとつは、そんなことをしても完全に記憶を保っていられる保証がないこと。
 もうひとつは、今ほどの才能はほとんど運命のいたずらであること。
 本来、あなたの血筋からしても前世の魂にしても今のような才能を示すことはありえないんです。
 もし、記憶を共有させたところで・・・十中八九、一般的なGSほどの才能程度でしかないでしょう・・・。
 そこはもうあなたの過去ではないんです。ここから、切り離されるということなんですよ?
 それでもいいんですか・・・・・・・?」

ああ、そんな顔をしないでくれ。これはただのわがままなんだから。
















「ん・・・?」

ん・・・・・・・・またなんか夢を見ていたんだろうか。

『目が覚めた様だな。』

「あ・・・・ああ。」

自分のつけてるバンダナから声をかけられるのにも慣れてきた。

『さきほどまではハーピー・・・飛鳥殿が来ていた。そなたの身を案じていた様子だったぞ。』

「そっか・・・。」

『来週で終わりだな。』

「ああ。」

俺はGSになれるのだろうか。
もし、俺がGSになれば・・・・飛鳥みたいなやつらを助けてやれるだろうか?
説得できそうなやつは、できれば倒したくない。
飛鳥と話していると思う。魔族や妖怪や幽霊だって悪い奴だけとは限らない。人を殺していても改められるかもしれない。
魔族や妖怪を殺し、幽霊を消滅させるのと、人間を殺すのにどれほどの違いがあるだろう。
GSになればそんなに悪い奴らじゃないなら、殺させずにすむかもしれない。GSにならないよりは、だけどな。
・・・それとも、こんな考えは・・・。

「あら、起きていたんですか?」

小竜姫様が部屋に入ってきた。

「小竜姫様・・・。」

俺は身を起こして小竜姫様に向き直る。

「その様子だと、肋骨の方は大丈夫みたいですね?痛みは多少残ってるかも知れませんけど・・・。」

「ええ、多分大丈夫です・・・。」

それよりも俺は小竜姫様がこの部屋に来てる事の方がドキドキだ。

「あなたにある霊能の才は決して突出したものではないわ。
なのに、あなたはそれを補うように・・・あらゆる面でこちらが驚いてしまうような速度で成長して行く・・・。凄いわ。」

それってもしかして・・・!ひょっとして俺の事を!?

「小竜姫様〜〜〜、それは俺に対する愛を曝け出してるんッスね!?」

小竜姫様に抱きつくべく決死のダイブ!!
をしようとしたが、一瞬前に立ちあがってしまった。
おかげで床で顔面を擦ってしまった。
火傷したかもしれん!?こ・・・・これ以上顔悪くなったら洒落にならん!

「フフ、それだけの元気があれば明日からはもっときつくしても大丈夫そうですね?」

いたずらっぽく微笑みながらそう言って小竜姫様は部屋から出ていってしまった。
あれ?

『・・・・無様だのう・・・。』

ほっといてくれ。




















とうとう最終日。

「本当に、いいんですね?」

深刻な表情の小竜姫様。
シリアスな表情もごっつぅ素敵やぁ・・・・!

「ああ、俺にも良く解んないんです。
ただ俺、強くならなきゃいけない気がしているんで・・・・。」

あれ、俺は一体何を言っているんだ。
そもそもなんでだ?
GSになりたいからか?それだけだっけ?
俺は・・・・・・・・ああ、強くなりたいかもしれない。
この修行中、自分でも理解できない衝動が俺を動かしてきた。
俺は何故こんなにも強くなりたいのだろう。
理由が解らない、思い出せない。
けどこの気持ちは借り物じゃない、俺から沸いているものだ。
この気持ちを抱く俺は本当に横島忠夫なのか・・・。

「・・・・死ぬかも知れないんですよ?
 あなたの霊能の才は決して突出したものではないのです、死ぬ可能性だって低くなんてないんですから。」

――へ?・・・死ぬ?
まさか、死ぬなんて死んでもお断りだって!
死にたくない!女性経験もないうちに死にたくない〜〜〜〜〜!
やりたいことはたくさんある。ああっ!まだ見ぬネーチャン達よ!!
贅沢もしたかった、こんな極貧のまま死ぬのは嫌じゃ〜〜〜〜〜〜〜!

「死ぬのは嫌ッス!・・・・・けど、才能がないからって、何もできないのも嫌なんです。
 才能がないからこそ、努力で鍛えるしかないじゃないですか。」

なのに俺は迷わずそう答えていた。
・・・何を馬鹿なことを言ってんだ、俺。
ええかっこしぃしたって死んだら終わりなんやぞ!?
でもいまさらやっぱ無理です、なんて言えるような雰囲気じゃない!

「・・・・なら私は止めません。
 さあ、まずは最終試験を受ける資格があるかどうか、ためさせてもらいます。」

誇らしげに俺を見て、小竜姫様は異空間に広がる修業場へと足を運んだ。
後についていきながら思った。小竜姫様は弟子の成長を喜んでいてくれたと。
美神さんも修行した場所に辿り着く。

「ここで方円に入るンっすよね!」

俺が方円に入ろうとするのを小竜姫様が静止する。

「その必要はありません、横島さんはそのまま闘技場に上がってください。」

良くわからないままに言われるままに闘技場にあがる。

「ではこれから、剛練武と禍刀羅守と戦ってもらいます。」

小竜姫様はけろりとそんなことを言った。

「いッ!!?」

「剛練武、でませい!」

俺が文句を言う間もなく剛練武が召喚される。
美神さんは余裕で倒したが・・・俺如きが勝てるか・・・!?
俺は両手に栄光の手を発動させる。
――来る!?
剛練武の攻撃をかわし、横に回りこむ。
予知めいた直感を持ってるわけではない。
ただ、小竜姫様との訓練で鍛えぬいた動体視力と反射神経で攻撃をかわす。
かわすと同時に霊波刀となった栄光の手で剛練武の弱点であるはずの瞳を斬りつける。

「くっ、かてぇ!!」

瞳は硬質化しており、もはや弱点ではなかった。
とてもじゃないが俺の霊波刀如きじゃ貫けない。
ちくしょう、弱点はないのか?
だが諦めない。同じ場所を狙い続ける。
幸い、動きそのものはそう速くはない。
だが、掻くべき裏は存在しない。
攻撃を避けては瞳だけを攻撃し続ける。
突く、斬る、打つ、刺す、抉る、殴る、潰す。
俺に許されたあらゆる方法をもって幾度も。
サイコキネシスだって絶え間なく叩きつけている。
とうに数えることは止めた。
そんな余裕があるくらいなら一撃でも多くの攻撃をしかける。
その瞳に亀裂が入り、俺はそこに渾身の一撃を加える。

「・・・・・・・・・・終わりか・・・・・・。」

「やりますね、横島さん。では次です。禍刀羅守、でませい!!!」

続いて召喚される悪趣味な外見――刀蟻というか、なんというか。
だが、アレの攻撃力は折り紙つきだ。舐めてかかるわけにはいかねーな。

「やっぱ悪趣味だよな・・・・。」
『無駄口をたたくな!来るぞ!!』

バンダナが俺に活を入れる。言われなくたって解ってるさ。
刃の肢が俺に襲い掛かってくる。
予想以上に速く、霊波刀で受けるのが精一杯だ。
しかし、受けきれずに足に一撃受けてしまう。

「ぐぁぅッ!?・・ッ!」

痛みに呻いている暇もない。
休みなく襲い掛かる刃に対してこの足では避けることもできない。
俺は両腕の霊波刀だけで刃の嵐を弾き続ける。
引くことも攻めることもままならない。俺にできることは刃を弾き続けることだけだ。

「どうすればいいんだ・・・・!!」

『・・・そのまま弾き続けていろ。霊波刀の刃でな。』

ああ、なるほど。そういうことか。
この刃の嵐を霊波刀の刃で弾き続ける。
俺の集中力と根性が尽きるのが先か、アレの刃が折れるのが先か。
ハァハァという苦しげな声が耳障りだったが、それはどうやら俺の口から発せられているらしい。
体がいうことを聞かなくなり始めている・・い・・・いかん、疲れ始めてきてる!?

「・・・・くっ!?」

受け損ねが目立ち始め、身体中に切り傷ができ始める。
深い傷が出来ちまうのも時間の問題かッ!?

『む・・・がんばれ、横島。修行に耐え抜けば小竜姫様から御褒美がもらえるかも知れんぞ。』

「・・・な・・に!?」

『御褒美というのはだな、接吻していただけるやも知れぬし、抱擁していただけるやも知れん。
 場合によれば背を流していただけるやも知れんぞ?』

チューや抱きつきはおろか裸の付き合いだと!!!?
ははははははは、こんな試練、速攻で片付けてやる!
痛みはあるものの身体の疲れは感じない。腕も思い通り動く。
もはやこの剣戟にも慣れてきた。
お前につきあっとる暇はないわい!!
修行が終わったら、小竜姫さまとぉ〜〜〜!!!

「・・・・・・・・!!!」

気合を込めて刃の肢を叩き折る。まずは一つ。
振り下ろされる肢と同時に突き刺してくる肢。
右で斬り上げ二つ、同時に左で打ち降ろし三つ。
自棄になったのか大振りで横に振りぬく肢を精確に狙って叩き折る。
もはや二本の肢では姿勢を保つだけでも苦しいだろう。
だが悪く思うなッ!これも裸の付き合いのためだ!

「食らえ!」

禍刀羅守の口に右腕を突っ込む。
食いちぎろうとするソレよりも速く霊波刀を巨大化させる。
内側から貫かれた禍刀羅守はその場から掻き消えてしまう。

「・・・・・合格です。」











死と紙一重の極限で踏みとどまる横島さんの剣戟は、竜神である私を戦慄させた。
一ヶ月に満たない修行が、彼を別人のようにしていたから。
私、小竜姫の末弟子にあたる彼は竜神を戦慄させるような才能を持っているのか。
答えは否、師として教えを施してきた私から見ても、彼は決して天才などではなかった。
ただ彼は、教えられたことが出来るようになるまで稽古をやめようとはしなかっただけだ。
だからだろう、これほど早く成果が出ているのは。
地味な努力を、彼は惜しむことがなかった。
ブツブツ文句を言いながら、それでも彼は稽古時間外でも訓練を続けていた。
彼の強さは、その努力だけではないことを私は今感じ取っている。
彼の霊能の才は美神さんのような天才的なものではなく、あくまでも凡庸でしかない。
だから戦闘中は考えを巡らし続けることで、その不足に対処している。
彼の戦いとは、彼に許されたあらゆる動きの中で、考えつく限り最高の動きを常にし続けることなのだ。
未熟な面もある。霊力のみならず、戦術や相手の虚を突く動きなどにおいても、彼は美神さんに遠く及ばないだろう。
動きも私などのような武人から見ればまだまだ荒削りでしかない。
だが、彼は戦闘中も常に最高の動きを模索し続ける。よりよい思考に辿り着き続ける。戦闘中に確実に強くなっていく。
ソレは決して才能などではなく、何かの目的――あるいは生き残ること、または本人の言うように何も出来ない状態から抜け出すこと――に対する執念のようなものだ。
一戦どころか、数度のやり取りごとに彼の発想は広がり、幅を持っていく。
極限状態の戦闘が彼の動きを洗練させていく。
偶然に出来た動きを、彼は自らの中に取り入れ続ける。
逆に無駄だと感じた動きは削っていく。
彼は常に思考を巡らし、自らに修正を加える。
才能のなさを補うために、彼は常に死線で足掻き続けているように見えた。
その在りように、私は戦慄した。
だが、それは何のために。彼が強くなりたいと思う理由が気になった。
いつしか私は、彼の演じる剣舞に魅入られていた。
そして彼は禍刀羅守さえも打ち倒して見せた。

「・・・・・合格です。」

私は彼の成長をもっと見てみたい。
彼ならば、あの死の試練を乗り越えるだろうという確信さえ湧き上がってきた。

「では、こちらに来てください。」

「は・・・はぁ。」

私は横島さんがついてくるのを確認して奥の部屋へと入る。
其処には椅子が二脚あり、横島さんをそこに座らせつつ、私も隣に座る。

「な、何だこのサル!?」

私たちは斉天大聖老師の精神世界に取り込まれる。

「サルじゃありません。神界きっての実力者、斉天大聖老師です。」

「ウキッ!!」

そう鳴いてゲームのコントローラを横島さんに渡す。
ほほえましくてつい、笑いがこぼれてしまう。

「え!?」

コントローラを渡された横島さんは助けを求めるように私を見ている。

「老師は今、そのゲームにハマっていらっしゃいます。もう三日もぶっ続けでプレイしておいでです。」

「サルそのものじゃねーか!!?」










そして最後の試練の前の平和な毎日が始まった。
魂を加速して出力を上げるのだ。だから現実にいる時間よりも長い時間を感じる。
数秒に過ぎぬ時間を、何ヶ月にも感じるのだ。
けどその時間決して退屈なものではなかった。
横島さんはいつも予想外な行動ばかりして、私を困らせたり、怒らせたり、笑わせたり。
それは、今まで私の過ごしてきた何百年もの時とは違った。
長い時間をかけて渇いたものに水をかけられたようだった。
けれど、そろそろそれも終わりで名残惜しい。

「・・・・・・・・・お前の魂は十分に加速した。これ以上の過負荷はお前の魂を消滅させてしまうだろう。」

「さ・・・・サルがしゃべった!?」

「お師匠様は今までこの空間を形成するのにほとんどの力を使っていたんです。」

そこまで言ったところで通常の空間に戻る。














「うお!?」

通常空間に戻って感じたのは全身が沸騰するような感覚だった。
いや、全身というのは少し違う。自分というモノから何かが湧き上がっていく。

「い・・・・いったいこれは・!?」

「準備運動は終わりじゃ!
お前の魂はわしの精神エネルギーを大量に受けて加速状態にあったのは聞いただろう?
あの仮想空間でわしらの魂は繋がっておったのだよ。」

そこまで言って猿は赤い棒を取り出し、巨体へと変貌する。

「過負荷から開放され、魂の出力が増しているうちに己の潜在能力を引きずり出せ。」

そういうことだったのか!?

「あのまま遊び呆けていたかった!!・・・・・・やるっきゃないのか!?」

俺は両腕に霊波を集中して構える。
あの棒・・・なんか知ってるような。

「あ!・・・斉天大聖って、孫悟空のこっちゃねーーか!!」

あんな有名なのと戦って生きてられるのか俺!?

「行くぞ小僧!!」

その突きは迅雷の如き速さで、鉄球の如く重かった。
かろうじて受けたものの、俺の身体は大きく吹っ飛ばされる。

「ぐぅ・・?!」

あかん・・・・・・やられてしまう・・!?

「そらそら!!」

突き出される一打をかわし、振り抜く二打を受け流し、振り下ろす三打をくぐり抜ける。
迫ることが出来たと思えば、棒の腹で間合いを開けられる
明らかに手加減している、遊ばれているのが解る。

「くそっ!!」

しかし、続いて襲い掛かってくるのは嵐のような連撃だった。
穿たれている、身体中が穴だらけになっている気さえする。
それでも手加減されている・・・・・・・・。

「ちくしょう・・・・」

せめて今よりは本気を出させてやる・・・!
テレキネシスで棒に負荷をかける。
少しでも思考を読み取ってやろうとテレパシーを試みる。
今までの攻撃から次の攻撃を予想する。
集中しろ・・・・!
なんでもない負荷でも僅かなズレを生む。
思考は読み取れずとも意志の動きは感じ取れる。
予想結果から少しでも有利になるように導ける。
かわしきれず、受けきれず、流しきれず。
読みきれず、止められず、攻められず。
限界ぎりぎりに打突振撃を耐え続ける。
自分の身体があげる悲鳴にも反応してやる暇はない。
突き出される直前に腕を眩しく発光させる。
一瞬、目が眩んだのか少し狙いが甘くなった。

「やりおるの、・・・だがそれでは潜在能力を引きずり出したとは言えんな!」

開いた斉天大聖の口から霊気の波動が迸る。
―――まずい、アレを受けたら間違いなく死ぬ。
今の俺にアレを防ぐ術はない。
よけようとすれば棒の餌食だろう。
止めることも敵わない。
死ぬわけにはいかない。
美神さん、おキヌちゃん、飛鳥、冥子ちゃん、まだ見ぬネーちゃんたち!!!
思い出せ・・・思い出せ・・・思い出せ!!!!
脳内をくまなく検索する。魂にさえ走査をかける。
濁流のように脳裏に再生される記憶に吐き気を覚える。
霊波刀を走らせながらも、暴力的な勢いと量の情報を認識していく。
俺の前世は陰陽師高島。 平安の世に生まれ、陰陽師の一派に属し、女好きが災いし投獄され、メフィストという魔族と関わりを持ち、愛を誓い、その来世と邂逅し死ぬ。
今の戦いに活かせる部分はないのか・・・!!
思考が加速し続ける。
陰陽師、陰陽五行に通じ、修験道や密教、道教に神道と相互に影響を及ぼす――時として同義とさえ言われる呪術体系。
高島が得意としたものは符呪と言霊、真言であった。
符呪は霊符を持っていなければ使えないものではない。
霊符の代わりの霊力を支払えば符呪は使うことが可能だ。

「急急如律令!!木気により土気を剋す!土気の波動を散らしめよ!!!!!!」

斉天大聖は陰陽五行に照らし合わせれば土気の神。
発する霊気は土気を帯びる。土気を散らす符呪によって霊波動を散らせるはずだ。
しかし、神の力は偉大である。威力は多少弱まったところで、消えることはない。

「避弾!!存思の念により災いを禁ず、迫りくる弾をしりぞけよ!!」

言霊により霊波動を禁じる。
禁じきれずとも、一瞬でも止まればそれでいい。
もはや斉天大聖に攻撃の意志は見られず、これさえ避けきれば問題ない。
なら話は速い。一瞬だろうと一つだけに集中できるならば!
テレポーテーションで斉天大聖の後ろへと跳躍する。

「合格・・・じゃな!もう少し遅ければ死んでいたところじゃぞ。」

そりゃよかった・・・・・・・・・・・・。
張りつめていたものが緩み、とたんに意識が沈む。






「あれ・・・・?」

俺に飛鳥が抱き着いていた。
唐巣神父も、おキヌちゃんもいる。申し訳なさそうな顔の小竜姫様も座っていた。

「横島・・・・!良かった・・・!!もう目が覚めないのかと思ったじゃん!!!」

ボロボロ泣きながら飛鳥が叫ぶ。

「よかった・・・横島さん・・・。」

おキヌちゃんも涙ぐんでいる。

「まぁ、無事で何よりだよ。令子君のしごきに感謝するしかないな。」

飽きれたように唐巣神父が肩を竦ませた。

「俺・・・・・・・。」

「おめでとう、横島さん。本当にがんばりましたね・・・。」

いいながら、小竜姫様が顔を近づけてきて、柔らかいものが頬に触れた。

「これは、私の予想を越えるくらいの成長へのご褒美です。」

うむ、これだけでも頑張った甲斐はあったぞ。
今すぐにも抱きつきたいところだけど、飛鳥に抱きつかれててできそうにない。

「・・・小竜姫様・・・・。」

俺が小竜姫様を見ると、ゆっくり微笑んだ。

「「な・・・・・・。」」

飛鳥とおキヌちゃんは固まっている。
抱きついてきてる飛鳥を抱きしめてみる。
うむ、柔らかい、夢じゃないな。

「あ・・・・じゃなくて、しょ、しょ、小竜姫!ど、どういうつもりじゃん!!」

「う・・・・。」

飛鳥は興奮した様子で小竜姫様につめよる。
赤面したまま黙り込んでしまうおキヌちゃん。
二人とも何を考えてるんだろう。

「・・・だから、がんばった御褒美・・・ですよ。」

いたずらっぽく笑ってそう言った。

「でもどーせキスしてくれるなら口にッ!?」

言いかけてる途中で三人にはたき倒された。できれば一人にして欲しかった。

「・・・・。」

目を逸らす小竜姫様が一瞬照れていたように見えたのは気のせいだろうか。
痛みで目も霞んでるから気のせいかもしんない。
っちゅーか、俺がモテるなんて事はありえんしな。ヂグジョー。


そんなこんなで、俺達は教会に戻ったのだった。








横島達を見送った後、自室に戻って小竜姫は自分の唇を撫でた。

「がんばったから、御褒美・・・・よね。」

自分に確かめてみるが、答えはなかった。












家の中で前世の記憶を整理している。

そうか、美神さんと俺は前世からの仲だったのか・・。
とゆーことは、あの女は俺のもの!!
・・・あれ、俺は前世に美神さんとも出会っている・・?
ああ、そうか、美神さんは時間移動でこの時代に自分の前世を見に来たのか。
ヒャクメとかいうぴっちりしたスーツを着た子と一緒にいる。
か・・・かわええ!!
じゃなくて、と。

『しかしお主が前世、陰陽師だったとはな・・・・。』

「あ!?今頃出てきやがって!!猿との修行のときに出てきてくれよッ!!!」

いきなり話しかけてくるバンダナに不満をぶつける。
文句は出てきた時に言った方がいい。
こっちから文句言ってもだんまりを決め込むからな、こいつ。

『私が出ないほうが修行になるだろうと思ってな。それにしてもそなたは陰陽師という柄ではないな。』

あっけらかんと言い放ち、再度失礼な感想を述べるバンダナ。

「あ〜・・・・・陰陽師っつっても千差万別なんだぜ?
 特定の神だの仏だのをあがめてるやつなんて宮廷陰陽師くらいで、下っ端陰陽師は状況に応じてふさわしい神に助力を請う。
 陰陽師って呼ばれてても、修験者だったり道教僧だったり真言宗とか神道だったりの秘術を使うなんてザラだし・・・。
 結構いろいろが混じってることが多いんだ。まぁ、陰陽師独自のところも結構多いけどな。
 下っ端の陰陽師はとにかく魑魅魍魎を退治する必要があった。
 陰陽五行を極め、十界修行の果てに覚し、密儀を繰り返し秘儀に至る・・・それが当時の陰陽師さ。
 俺・・・高島だって例外じゃなかった。」

前世の知識が完璧に今の知識として生かせているじゃないか・・・・!
俺――というか高島の知識の深さに感動するがいい。
俺じゃないみたいにいろいろ知ってるしな、わははは。

『ほう・・・。陰陽師とはキリスト教者や仏教徒に近いかと思っていたが、認識不足だったようだな。
 信仰心による奇跡ではなく、儀式や言や法則による秘術。
 陰陽五行そのものも認識により作られ続けた魔術の体系だったか。
 文字通り日本版の魔術師であるわけだ。』

素直に感心したようにバンダナは声を漏らす。

「俺・・・高島の師匠だった人は民間陰陽師でありながらあらゆる秘術を研究し続ける人だったんだ。
 高島はそんな師匠の下で命懸けで修行したんだ。陰陽師はそりゃもうモテるからな。・・・しかしそんな原因で命かけるんだもんな〜。
 前世でも俺は俺ってことかな・・・。まぁ、それでも陰陽師としては京で三指に入るので限界だったみたいだ。
 才能はたいしたことなかったからな・・・・。」

『しかし、それにしてはアレだな。そなた全然煩悩なくなってないな。十界修行は悟りをひらくものだろう。』

「いいか、勘違いしちゃいけないぞ。本覚とは煩悩もまた自然なものであると受け入れることだ。
 俺は神仏を盲目的に崇めているわけじゃない。神仏先達の辿り着いた境界にこの身を持って辿り着く。
 そして、神仏の示す境地を尊ぶ。信じ、敬うのは心であり、在り方だ。」

『ふむ、神仏は崇めるものではなく自らが歩む先の目標であるということか。
 力や理想の象徴として尊ぶわけだな。真言というのも神の力を借りるわけではなく、自らの内の力を神に照らし合わせて顕現させるということか。』

「まぁ、・・・・そうだな。それだけじゃなく、多くの人間が使ったことで真言は力を持った。意味を与えられ繰り返され続けた言葉は強い力を持つんだ。」

ちなみに俺が十界修行で感じたのは俺には忘我など不可能だということである。
煩悩は確実に俺の一部であり、それを否定することは出来ない。
つまり、俺はスケベでいいのだと悟ったということだ!
わはは、前世でも変わらんな、俺は。

「だがあの魑魅魍魎の跋扈する京にいた俺も・・・魔族には勝てずに死んだ。」

そして、その高島は美神さんの前世と前世に時間移動した美神さんの前で死んだ。
アレほど高位の魔族が現界するなんて・・・・・・・・何者なんだ、あいつは。
謎は深まるばかりかぁ・・・。いいや、寝よう・・・・・・・・。

続く
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