今日も今日とてお勤めだ、というわけで。
学校をサボってこうして教会の前に来たわけだが。
真面目な神父なので基本的にサボりを許してはくれないのだが、こうでもしないと飯を食っていくことができん。

「九尾の狐が復活した!?」

教会の中からいきなりこんな神父の声が聞こえてきたもんだから、俺と飛鳥は顔を向け合ってしまう。

「きゅ、きゅきゅ、九尾の狐って・・・・」

あまりにも有名すぎる妖怪なので、驚いて言葉が途切れる。

「めちゃめちゃ有名な妖怪じゃね〜〜か!」

飛鳥は何かを知っているような顔をしていて、複雑そうだ。
九尾の狐って確か・・玉藻の前とか、そんな感じの名前だったな。
・・・美女に化けてて最後は武士に倒されたとかいう伝説だったはず。
前世の記憶にないってことは、高島が死んだ後っぽいな。
う〜ん・・・まぁ、ともかく入ろう。




GS〜彼の追った夕陽〜
第7話 金毛白面九尾の狐




俺と飛鳥が教会に入ると、唐巣神父はちょうど電話を置いたところだった。

「「おはようございまーす!」」

「おはようございます、横島さん、飛鳥さん。」

「おはよう横島くん、飛鳥。二人は九尾の狐って知っているかい?」

振り返り、長椅子に座りながら神父が尋ねてくる。
後ろにおキヌちゃんがふよふよ浮いている。

「まぁ、聞いたことくらいはありますよ。玉藻の前でしたっけ?日本の妖怪っスよね?」

覚えていることを口にする。確か間違えていないはずだ。

「違うって。金毛白面九尾の狐はインドから中国に渡り、そして日本に現れた妖怪じゃん。」
どうやら間違っていたらしい。飛鳥が呆れたみたいな口調で――呆れてるんだろうが――訂正する。
「そう。現れるたびに王朝を終わらせる傾国の妖怪だよ。絶世の美しさで時の権力者を誑かし、破滅させる。強力な霊力を持った厄介なやつなんだ。」

「じゃあ、悪い妖怪なんですねぇ。」

人差し指をピシッと立てて説明する唐巣神父の言葉を聞いておキヌちゃんが呟く。

「唐巣、それは人間の勘違いだ。金毛白面九尾の狐は強力だけど、傾国の妖怪ってワケじゃないじゃん。
 ただ時の権力者に保護されることで、身の安全を得ようとしただけ。王朝の崩壊の種火は九尾の狐が現れる場合から存在していたんだ。言ってみれば運の悪いやつじゃん。」
という飛鳥の発言の根拠は、殺し屋としての過去が関係あるらしい。
九尾の狐も殺しの標的とされていた時期があったらしいからだ。
魔界にも天界にも属さないあまりに強力な存在としてマークされていたらしい。
少しでも殺しやすくするために標的を洗いざらい調査する。
なるほど、強力な存在相手には重要なことかもしれない。

「なんてことだ・・・・それじゃあ、無害な妖孤を殺すということに・・・・・。」

「受けちゃったんスか?」

「あ、ああ。」 「いや、神父。逆にそれラッキーかもしれませんよ。俺たちが参加しようと、参加しなかろうと、九尾の狐は除霊されるんスよ?なら・・・。」

俺たちが助けてやるのは無理なのか?いや、一度吸魔護符に封じて、後で破ってやればいいのか?
神父も基本的に人がいいからな、同意してくれるはずだ。
「ああ、私たちが参加することでなんとか妖孤を助けることができるかもしれないね。」
「私達も手伝えることありますか?」

「今回は自衛隊からの依頼による大規模な作戦で、他のGSも多く来るものだからおキヌちゃん達がくるのはまずいね。除霊されそうになると厄介だしね。それに・・・。」

基本的に無許可で妖怪を住まわせるのはGS協会の規定に反する。
そういったものがバレた場合、免許が剥奪されることもありうる。
保護申請にだって先立つものは必要であり、申請するお金が入るまではこそこそ匿っているしかない。
だから飛鳥やおキヌちゃんがくるのはまずい、と。
こんな内容のことを唐巣神父は簡潔に説明した。
ふむ、とゆーことはつまり。

「今回は男だけっすか!!!」

くやしいので転げまわる。転がるうちにたんすの角に小指をぶつけた。

「アイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

中国人になった。
そのぐらい痛かった。

「私と横島君で行くのは確かだけど、横島君は外回りの警戒になると思うよ。」

だから一人でいる方が長いと思う、と唐巣神父が腕を組んで言う。

「・・・危険だからってことっスか。実際、危険じゃないはずなんスけどね。」

つまり、九尾の狐が逃げたり、他の何かが入ってきたりしないように見張りをするというわけだ。

「そうなるね、まだ君は免許を取得していないからね。さあ、行こうか。あんまり時間がない。作戦開始は今日の午後からだ。・・・私も、できるかぎり九尾の狐を逃がす努力をしてみる。」

「神父、そのことで相談なんスけど・・・。」

俺は神父に具体的な作戦を持ちかけた。








結局、おキヌちゃんと飛鳥はボロボロの教会の補修作業をすることになり、俺と神父が除霊現場にきている。
森の中に逃げ込んだ九尾の狐を除霊するために森ごと結界を張ってしまい、GS達が九尾の狐を見敵し、必殺する。
各助手や見習は結界の基点に配置されることとなり、安全も十分に考慮されている・・・らしい。
難しいことは良くわからんが俺は安全ってことで、こうして除霊作戦が開始されたわけだ。
結局大した作戦は立案できず、神父のようなベテランは前線に狩り出されるだろうという事で、吸魔護符に一度封じて保護するか、神父が派手な霊波攻撃をわざと外して逃がすかの二択だ。
とりあえず見習いのやることは、ごく普通の動物が結界を破らないように見張ることなのだが。
俺はといえば、逆に九尾の狐が結界にはまってしまったとき逃がすことを考えて結界をぐるりと回りながら呟く。
「いねーよ・・・・・・。」

それに、無意味にでかいリュックサックも持ったまんまだしな。
リュックを下ろして座り込む。ああ、木々のざわめきで涼しい気分になれる。
ざわざわという葉のこすれる音に混じって、がさがさとこっちに何かが走ってくるような音が聞こえる。

「子狐!?」

子狐が飛び出し、俺の横をすり抜けて結界の外に走り去ろうとしている。
だが、その結界に引っかかり、子狐は動けなくなっている。

「尻尾が九つある・・・!?九尾の狐なのか!?」

『横島!護符を出せ!!』

結界の出口には小さな簡易結界がいくつも張られていて、そのうちの一つにはまってしまっている子狐。
おびえたようにこちらを見上げて震えている、なんか可愛らしいこいつが・・・・・・・・?
バンダナに言われたとおり、念のためにと渡された吸魔護符を構えるとビクッと反応する。
・・・前にも思ったことだが・・・妖怪だって、感情がある。心があって、話せばわかることもある。
それにこいつはほんの子供で邪気なんて感じられない。
怪我してやがる!?護ってやらなきゃ。
このまま逃がしたら知らないとこで死んでしまうかも知れん。
死なれるのは二度とごめんだ。
なんだ・・・・?死なれるっていうのは、知らない。
知らないが、やっぱりこの子狐を逃がしてほっとくなんてこと――

「俺には出来ん!」

俺が保護しちゃる。
結界から出してやろうと子狐を持ち上げると、酷い怪我を負っているのがわかった。
それでも、結界から出た瞬間に烈火のごとく暴れだす。
俺の腕に噛み付き手を引っかき、腹を蹴る、ほとんど普通の動物のようでしかない抵抗。

「こら、暴れるな・・・!助けてやるから・・・!」

『横島!早くしろ!!こっちに追撃部隊が向かってる!』

やっぱり言葉がわかるのか、少しは暴れなくなった。
バンダナの声に焦りを感じて動きが少し乱暴になる。
わりぃ、子狐。
リュックの中に子狐をしまい、吸魔護符に火をつける。

「・・・横島君!?こっちに九尾の狐が・・・・!!」

唐巣神父の声が聞こえる。
ギリギリ、か・・・・。自衛隊、他のGSが駆けつける前に隠し通せてよかった。

「ああ・・・・・・・弱ってたんで、吸引して燃やしちゃいました。」

ヘラヘラと笑いながら燃えてる護符を指差す。

「・・・・・・・。」

探るように俺の顔色を伺う唐巣神父。
俺は神父だけに見えるように親指を立てる。

「!・・よくやったね!」

そういって俺に背を向けて自衛隊員たちと話している。
自衛隊員や、他のGSが唐巣神父を称えている。その中に、さすがGS界に名を響かせる唐巣神父、助手といえどもなかなかのものですな。などという言葉も聞こえ、内心はかなり複雑だった。












唐巣神父はあの後の始末もあるので、一足先に帰ってきたんだが。
結局部屋まで連れて帰ってきちまった。
けど、治療しようとすると暴れるもんだから作業は難航している。
足が折れてて、霊力がほぼ残っておらず、全身の傷も治らない。
あれだけ大勢で追い立てたんだから、きっともう人間不信もいいとこに違いない。
だから俺のことも敵として見ているし、近づけさせようともしない。
飛鳥なら何とかなったかもしれないが、教会の補修がそう簡単におわるわけがない。
下手したら帰ってこないぞ・・・・。

「しかたねぇ・・・・!」

こっちが怪我するのは多少我慢してまずは添え木だ。
腕に噛み付かれる激痛をこらえて、後ろ足の骨を整復する。
軽く引っ張って、骨の位置を調節し、元に戻す。

「うまくいくかはわからないけど、できる限り丁寧にやるから暴れるなよ!!」

ゴキ!という嫌な音がした瞬間、噛み付く力が強まり、より肉が裂ける。

「キャン!!」
「ほああああああああああああああああ!」

俺と子狐の叫びが部屋に木霊する。どうも声だけ聞くと俺のが重症っぽい響きだ。

『だ・・・大丈夫なのか?横島。』

額の辺り――というかバンダナが声をかけてくる。

「ああ、大丈夫じゃねーけどな・・・。」

痛くない、痛くない、と呟きながら、骨の位置を調整して、添え木代わりに折った孫の手を包帯でくくりつける。
痛みが和らいで気が抜けたのか、抵抗がなくなった。

「なぁ、バンダナ。どうすれば傷を治してやれるんだ?」

『・・・抱いて霊波を送ってやれば、傷はすぐに塞がっていくはずだ。』

なぜか不機嫌そうな声でバンダナが言う。
なるほど。
とりあえず自分の腕の傷の手当をして、九尾の狐を腕に抱く。

「きれいな毛並みをしてるんだな。」

『金毛白面九尾と言うのは伊達じゃない。九尾の狐の毛並みは世で最も美しいとされている。』

苦しそうな狐の背を撫でてやる。
そうしながら霊波を送った。
普段はうまくできない霊波の放出も、なんとかうまくいっている。

「こうしてると、尻尾が多いだけの可愛い子狐だな。」

頭を撫で、背を撫で、尾を梳くように撫でる。
ふわふわでサラサラの幸せな手触りだった。

「きゅーん・・。」
霊波を当てながら撫でているせいか、気持ち良さげに鳴いている。
撫でると嬉しいのかもな、もしかすると。
くすぐったいんだとしても痛いよりはましだろう。
そう思って自分の意識が途切れるまで九尾の子狐に霊波を送りながら撫で続け、抱いたまま眠りについた。









目が覚めると、腕の中に子狐はいない。
チュンチュンと小鳥のさえずる声さえも鬱陶しく思いながら、部屋の中を探し回る。
――何かあったのか!?

「どーしたの?ヨコシマ・・・・。そんなに慌てて。名前、ヨコシマでいいのよね。」

髪を九つのポニーテールにした女の子が部屋の中にちょこんと座っているのに気付く。
狐色の髪の毛をした怜悧な印象を受ける綺麗な肌の白い少女だが・・・・・・・・はて、もしかして。

「あ、ああ・・・。おまえ、もしかして子狐か?」

指差して尋ねると、少し不機嫌そうに反論する。

「あたしはタマモ!子狐なんて呼ばないでくれる?」

その様子は元気そのものだった。

「よかった!元気になったんだなっ!!もう大丈夫なんだな!?」

感動を表すためにタマモを抱きしめてみる。
俺はロリコンじゃないぞ、ちなみに。

「ちょっ・・・ヨコシマ・・・?・・・・・・・・・・・ありがとう。」

振り払おうとはせずに、小さい声でお礼を言うタマモ。
結構可愛らしいじゃないか、こいつ。

「ヨ〜コ〜シ〜マァ〜・・・・・・・。」
「よ〜こ〜し〜まぁ〜さ〜ん・・・・。」

なんだか聞きなれた声が、後ろから聞こえる。
ギギギギ、という不快な音を出しつつゆっくり振り向く。
とてつもない形相のおキヌちゃんと飛鳥がそこにはいた。

「何やってるんですか横島さん!?」

恨めしそうな目でこっちに迫ってくるおキヌちゃん。

「さっさと離れるじゃん!」

飛鳥はタマモと俺を引き剥がし、こっちに手を伸ばしてくる。
そして俺に抱きついてくる。おおっ!?一体コレはどうしたことか!?
だがチャンスだ、しっかりと抱きしめて・・・・・・・

ゴス!

は?・・・・・・・・お、おキヌちゃんか?

「まったく。横島さんのえっちは相変わらずなんだから・・・・。」

ぬ、それに関してはいささか反論がある!

「違うよ、おキヌちゃん!ただ安心して嬉しかったから抱きしめただけだよ!俺はロリコンじゃない!」

いや、本当なんだけど。
すっごい白い目で見られている。

「飛鳥さんも抱きしめようとしたじゃないですか・・・。」

「あはは・・・。」

「・・・・・・・・えっと、あんたの名前は?」

そんな事をやっている俺たちを横目に飛鳥が俺のほうからタマモに向き直り、声をかける。

「タマモよ。・・・・アンタは魔族?」

あれ、タマモってこんなに冷たい口調だったっけ。
目つきもこころなしかきつい。

「まぁ、そんなとこだ。安心しな。横島は私にとっても恩人じゃん。別に危害を加えたりはしないよ。」

「横島さんはいい人ですけど、エッチだから気をつけてくださいね。」

おキヌちゃんにまでこんな事言われちまう俺って・・・・。
それなりに心当たりはあるから反論もできないけどな、わはは。

「私はヨコシマを信用してるわ。すくなくとも他の誰よりも。殺そうとした人間たちから護ってくれたんだもの。」

「な・・・・・・・・。」

タマモ・・・・・・・・・。
そっぽを向いて言う姿が可愛らしくて、頭をポンポンと撫でてやる。

「住む場所はどうしましょう・・・・・?」

「ここでいいわ。」

考え込むおキヌちゃんに、タマモはそう言い放つ。
一拍おいて二人の口が同時に開いた。

「「それは駄目!!」」

「え・・・・・・?」

不意打ちに圧倒されるタマモに、慌てたように説明を加えるおキヌちゃん。

「一緒の部屋はいけないと思うの。男女七歳にして席を同じうせずって言うし!」

「・・・・・・・・私は・・・。」

ちらりとこっちを見る。不安そうな瞳が揺れている。
おキヌちゃんと飛鳥だから大丈夫だよ。

「大丈夫よ、横島さんの部屋の隣だから。」

安心させるようにおキヌちゃんが言った。
タマモの頭をポンと叩いて飛鳥も笑う。

「私たちと一緒だ。これからよろしく頼む。」

不貞腐れたように明後日の方向を見て不満そうに鼻を鳴らす。

「フン・・・・・・・・・よろしく・・・。」

それが照れ隠しだって、俺でさえ解ってしまうほど微笑ましかった。








ちなみに唐巣神父に紹介しようとしたところ、タマモが錯乱して神父の髪の毛を毟ってしまって大変だった。
神父もタマモを助けようとしていたことを説明すると、しぶしぶながら納得してくれたわけだが。
次に神父を見たとき、神父は一心不乱に神に祈っていた。
「神よ、私の髪は死んだのですか!?」
・・・かわいそうに、唐巣神父。
あなたの神に問うなかれ、だな。

続く
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