頭の上に子狐になったタマモを乗っけて、飛鳥とおキヌちゃんと一緒に教会に行くと、そこには見知らぬ美形が座っていた。
そこで唐巣神父の紹介を受けたわけだが、思わず聞き返す。
「「・・・・・・・・はい?」」
「いや、だからね・・・横島君、おキヌちゃん。私の旧知の仲で齢700のヴァンパイアハーフのピエトロ・ド・ブラドー君だ。」
タマモと飛鳥は珍しくもなさそうにピエトロに挨拶している。
「私はハーピーの飛鳥だ。よろしくじゃん。」
その挨拶はいかんぞ、飛鳥・・・。それではどこぞの芸人みたいだ。
「私はタマモよ。」
『私は名を心眼という。よろしく頼む。』
心眼まで挨拶していた。
それだけ言うクールなタマモはフレッシュな中学生スタイルだ。
「お三方ともよろしくお願いします。」
きめ細かく白い肌。スリムで神秘的な雰囲気を纏う金髪碧眼の美青年。
物悲しい瞳が揺れている・・・・チクショーーーー!!
モテるんだろうなっ!!チクショウチクショウ、なんだかとってもチクショーーーー!!!!!!!
「や、やめたまえ横島君。イエスに釘など打っては・・・!!」
はっ・・・いかんいかん。
つい我を失ってしまった。
「・・・で、そのイケメンが何の用でここまで?」
「僕のことはピートと呼んでください。・・・依頼があってきたんですよ。――元々僕や仲間の吸血鬼はイタリア領に存在するブラドー島という隠れ島に住んでいます。
父であるブラドーの魔力により人の目から隠され、人間と対立することなく生きてこれました。
しかし、中世に『ヨーロッパの魔王』から負わされた傷を癒したブラドーは中世のノリで人間を支配しようとしてるんです。
もし人間が本気になれば・・・あんな島なんて一瞬でニンニクまみれにっ!!!?ああ・・・地獄だ・・・!!」
ヨーロッパの魔王ってドクターカオスか・・・。昔はすごかったらしい。
説明を終えたピートはニンニクのことを考え始めたのか苦悩し始める。
「・・・・・・・・そりゃあ、まぁ・・・。」
本人にしてみれば大真面目に悩んでいるんだろうが、こっちとしては呆れてしまい、これ以上言葉が続かない。
「地獄のような臭さよね・・・・。」
嫌そうな顔でタマモがぼそりと呟く。狐もイヌ科だもんな・・・・。
「にんにく、おいしいじゃないですか。」
苦悩するピートの横でおキヌちゃんが話しかけている。
どうやら吸血鬼のことを良くわかってないらしい。
「そういうことで、旧知の仲である私に依頼に来たんだよ。」
苦悩しているピートの代わりに唐巣神父が言葉を続ける。
「でも、中世の吸血鬼なんでしょ?俺たちだけじゃまずいですって・・・。」
古い吸血鬼になればなるほどその力は強くなる。
中世から存在するとなると立派に大吸血鬼だ。
「私がいるから大丈夫だ、横島。」
「・・・私も手伝うわ。」
飛鳥、タマモ・・・。
畜生・・・なんだかジーンとしちまったじゃないかっ。
「私も力の限り応援しますからっ!」
フーリガン姿で『横島さは〜ん!』とかいいながら日本の国旗を振り回したり笛を吹いたりして見せるおキヌちゃんが可愛い。
これで幽霊じゃなかったら!!!!!!!!!!!!!!
「うむ・・・・しかし、この人数でいくよりは出来る限り助っ人を呼んだほうがリスクは少なくてすむな。」
そんなわけで心当たりのある人物たちに俺たちは声をかけていった。
GS〜彼の追った夕陽〜
第8話 結成、極楽愚連隊!
そして俺は冥子ちゃんに助っ人してもらえるように頼みに来ている。
やっぱりこの人の家は大富豪なんだな・・・・。
冥子ちゃんの家に来た俺はインターホンを押すのも忘れて豪邸に見入っている。
でけぇな・・・教会が何十と建つぞ、この敷地。
そもそも門の向こうは立派な庭園。噴水に石畳の広場、それに整えられた植木と芝生。極めつけは花壇や鉢植えに植えてある高そうな花だろう。
住む世界が違いすぎるというのがつくづく納得させられる。
は!?いかんいかん、さっさとインターホンを押そう。
『はい〜?どちら様〜〜?』
「横島です!!冥子ちゃんいますかっ!?」
『あ、横島くん〜〜?ちょっとまってね〜。』
どうやら、冥子ちゃんだったようだ。
いやまぁ、大体声――というか喋りで誰だか予想はついたけども。
門が自動で開いたので、恐る恐る中へ入っていく。
「横島く〜ん、いらっしゃ〜い!」
「冥子ちゃん!相変わらず可愛らしい!!」
とてとて走ってくる冥子ちゃんはやはり年上とは思えない可愛らしさだ。
おかっぱにしたさらさらの黒髪は光を反射して奇麗だし、お人形のように端整な愛らしい顔立ちには明るい表情を浮かべている。
そしてその意外に出るとこでてしっかりくびれてるナイスバディがわかるようなドレスを着ている。
つい手をガシッと掴んでしまう。抱きつかないのは式神の暴走で死に至るのが嫌だからである。
「横島くんたら〜。お世辞言っても〜何もでないのよ〜〜。」
少し頬を染めて小さく首を振りながら冥子ちゃんが微笑む。
「お世辞じゃないんだけどね・・・。今日はちょっとお願いがあってきたんだ。」
「お願い〜?とりあえず〜、ここで立ち話も疲れちゃうし〜お部屋にどうぞ〜〜。」
聞き返してから部屋に案内する独特の間合いはやっぱり冥子ちゃんならではなんだろうな。
冥子ちゃんの私室に通されたのには驚いた。応接間かなんかに通されると思ってたんだが。
冥子ちゃんがいうには、『だって〜お友達でしょ〜〜、お部屋に呼ぶのって初めてなの〜〜。』って嬉しそうに言ってた気がする。
「そういえば、お願いって〜?」
『それについては私が話そう。こやつよりは判りやすい説明ができるはずだ。』
もう慣れてきたが、やっぱりいきなりの登場なのかコイツわッ!
「ひどくねーか?」
確かに俺はそんなに説明が上手ってワケでもないが・・・・。
一応抗議してみても罰は当たるまい。
「横島くん〜、その子は〜?」
『私は名を心眼という。小竜姫により生み出されし、この者の師にして相棒といったところだろうか。』
「そうなの〜、私は六道冥子っていうの〜、よろしくね〜。」
『よろしく頼む。・・・それでだな。』
心眼は今までのいきさつを話して吸血鬼退治に行かなくなったことを話す。
出来る限り戦力が欲しくて、助力を請いに来たと告げる。
「と、バンダナが今言ってくれたとおりなんだけど、頼めない?」
『心眼だ、横島。』
む、すごい不機嫌そうだな、バンダナ・・・・・いや、心眼。
もしかするとバンダナって呼ばれるのが嫌なのか。
「すまん、心眼。」
「いいわよ〜〜、お友達の〜お願いですもの〜〜。」
快く承諾してくれる冥子ちゃん・・・うう、ええ子や・・。
美神さんとかだったらギャラ払わないと手伝ってくれないんだろうなぁ。
交渉に行った唐巣神父・・・・胃を痛めてるんじゃないか?
「ありがとう、冥子ちゃん。俺に出来ることなら何でもお礼するよ!」
ただで手伝ってもらうのも気が引けるので一応提案してみる。
雑用くらいなら出来るしな、ははは。
「じゃあ〜、今度〜〜一緒に遊園地行きましょ〜〜。」
遊園地か、なんだそんなこと、おやすい御用・・・・・・・なぬ?
「へ?俺と?」
「そうよ〜。私〜〜デジャプーランドっていったことないの〜〜。」
期待に満ちた眼差しでこっちを見る冥子ちゃん。
「解ったよ、冥子ちゃん。・・・・でもそれだけじゃなんだかなぁ。」
俺が出来ることで役に立つこと・・・?そういえば俺は霊符を作れるじゃないか!
「冥子ちゃん、厚めの和紙と硯と筆を貸してもらえないか?」
「いいけど〜〜何するの〜〜?」
「いいものを作ってあげるよ。」
俺の前世は陰陽師であり、何種類もの霊符の綴りを知っている。
今では伝えられていない綴りもあるほどだ。
ついでに自分用のもちゃっかり生産させてもらおうかな。
冥子ちゃんはメイドさんに頼んで頼んだものを一式揃えてくれた。
黙々と符を作っていく。
簡易儀式によって霊符に力を持たせていく。
本来は四十九日かけてやるものだが、結局その本質を誤らなければ様式に拘る必要はない。
儀式手順そのものに本質があるならまた話は別だけどな。
霊符に関するものについては儀式そのものよりはそれに込められた意味に本質がある。
だから、最低限の儀式を的を外さずに行えば問題はない。
「冥子〜〜。」
「あ、お母様〜〜。」
冥子ちゃんの母親が冥子ちゃんの部屋に入ってくる。
和服を着こなした上品な感じのおばさんである。
「あれ、そちらの方は〜〜?」
やっぱりこの親にしてこの子ありということだろうか。
このテンポには血を感じる。
「どもっす、お邪魔してます。」
俺なりに丁寧に挨拶したつもり。
あまり礼儀に五月蝿い人ではないらしい。
「こちらは横島さんで、冥子のお友達なの〜〜。」
「あら、冥子のお友達なのね〜、おばさん嬉しいわ〜〜。・・・あら?それは?」
冥子ちゃんのお母さんが俺の手元を見やって尋ねてくる。
「これは符を作ってるんです。」
「横島くん、すごいのね〜〜。符を作れるなんて珍しいわ〜〜。」
「すごいでしょ〜〜〜。」
おどろく冥子ちゃんのお母さんになぜか自慢げな冥子ちゃん。
何でそんなに冥子ちゃんは自慢げなのか・・・・。
和紙が切れるまで必死で書き綴り、終わるときにはもう霊力も使い果たした。
「退魔霊符10枚、耐霊障護符2枚。はい、冥子ちゃん。」
そして同じ数の符を自分のために貰っておく。
「ありがと〜〜。使い方は普通のお札と同じでいいのね〜〜?」
大事そうに抱えて冥子ちゃんが聞いてくる。
「うん、普通に使えるよ。」
「横島くんは〜〜〜、陰陽師の家柄なのかしら〜?」
冥子ちゃんのお母さんが真面目な顔で聞いてくる。
「いえ、ただ前世が平安京の陰陽師だっただけです。」
この前思い出したことを言ってみる。
「じゃあ〜式神の扱い方はわかる〜〜?」
解るといえば解るわけだが、高島の場合は式神符から出現させた式神を操る程度しかしたことはない。
基本くらいは習ったことがあるというくらいだ。
「まぁ、基本的なことくらいは。」
と、偽りないところを正直に答えると、なにやら考えている。
冥子ちゃんのお母さんは暫く考えてから口を開いた。
「実はね、六道家では今霊能科を主軸にした学園を有しているの〜。
最近では式神を自由に操れるGSは激減しているわ。
日本では使い魔を有するGSさえ少数派なのよ〜〜。
でも、生徒たちに実戦形式の訓練をつませるには式神がベストってことは想像つくでしょう?」
まぁ、その意見は間違いない。
低級霊や弱い妖怪などを使って実戦形式の訓練をするにしてもリスクは付きまとうし、常に課外授業ばかりするわけにも行くまい。
その点、式神を利用するのであれば、制御する人間がいるのだし、リスクは確実に少なくなる。
俺の場合は霊符さえあれば何度やられても作り出せるわけだし。
前世の記憶が戻ってから、いろいろ解るようになったなぁ、俺。
「はぁ、まぁ・・・そうっスね。」
だが、こんなこと聞いてどうする気だ・・・。
「それでね、横島くん。あなたはまだ正規のGSではないでしょう?
GS試験に受かってもGS見習い期間というものがあって、一定期間、一定の仕事をこなすまではGSとして認められないのよ〜〜。
見習いの間、うちの学校で働かない?六道家が保証人になってあげるから〜〜。お給料もいいわよ〜〜。」
「い、いや、悪いっすよ。唐巣神父が保証人になってくれるっぽいですし・・・。まだ修行も足りませんし。」
お給料という甘美な響きに惹かれるものの、学校では俺は成長しない気がするので遠慮する。
なぜか思う、前世の記憶を取り戻してからはより強く。
強くならなければならない気がしてならない。
度し難い、この強さへの羨望。俺自身わからなくなる。
『しかし横島、今の極貧生活から逃れられるのは悪くないのではないか?』
「そうなんだけどなー!うーん・・・」
心眼の言葉に心が揺れる。こいつもなんだかんだで俺のことを親身に考えてくれる相棒だからな。
「あれ〜、横島くん、それは何〜?」
六道女史が俺の額を指差す。
俺は自分の額についているバンダナを撫でて答える。
「ああ、こいつは心眼って言って俺の相棒なんです。」
『む・・・う、うむ。よろしく頼む、六道女史。』
珍しくどもりつつ、心眼が挨拶する。
「えぇ、こちらこそよろしくお願いするわね〜。」
それでね、とのんびり続けて六道女史は再び説得を始める。
「六道女学院の教師になってくれれば〜、GSになってからの箔がつくわよ〜〜。
高校卒業するまでは補習とか授業外の訓練を担当してくれればいいし〜。
修行したいなら〜、女学院の生徒さんのところにちょうどいいとこが〜あったわよ〜。峯虎寺ってところなんだけど〜〜。」
修行場も紹介してもらえるなら・・・・いや、そんなことはたいした問題じゃない!
女学院!?六道女学院だとっ!!!!!!!!!!!!禁断の園、男子禁制の約束の地への切符を俺は手にしたというのかぁっ!!!
「やりますっ!!やらせてくださいっ!!!」
六道女史の手を握って懇願する。
「え?ありがとうね〜、横島くん、良くわからないけどやる気になってくれておばさん嬉しいわ〜〜。」
「良かったわね、お母様〜〜。」
ふっふっふ、俺の時代がやってきたのかっ!?
まぁ、とりあえず今日はバンパイアの島に行く準備しなきゃいけないし。
Dr.カオスのとこにも行かなきゃいけないし。
「詳しいことは今度でいいっすか?これから除霊なんです。」
「そうなの〜〜。お母様、私も誘われちゃったの〜。」
「あら、よかったじゃない〜。・・・今度はプッツンしないように気をつけてやるのよ〜〜。」
「・・・は〜い。」
いつにない六道女史の威厳に冥子ちゃんはビクビクしていた。
やさしくも厳しい母親ということなんだろうか。
うちんとこも母ちゃん怖いしなぁ。
続いてDr.カオスのところに向かう。Dr.カオスは俺と同じアパートに住んでいるのだから、向かうというほどでもねーけど。
今じゃ結構話す仲だし、Dr.カオスの武勇伝や知識を聞いて純粋に尊敬もしてる。
ヨーロッパの魔王と呼ばれたカオスは1000年もの時を人のまま生きている。
過去の武勇伝、天才と呼ばれた男の人生も胡散臭さを感じさせない含蓄がある。
ボケつつあるのが惜しい。この男は人の身では不可能だとされた奇跡を人のまま体現した偉人なのだ。
だから俺はカオスに少なからず敬意を持っている。
「Dr.カオス、頼みがある。」
「な、なんじゃ小僧、改まりおって。む、また昔の話を聞きに来たのか?」
『いや、重要なことだ。カオス殿。』
「ほう?言ってみぃ。」
突然声を発する心眼にもなれたもので、ごく普通に応対するDr.カオス。
『ブラドーを知ってるか、カオス殿?1000年を生きたカオス殿なら知っててもおかしくないのだが。』
そう言う心眼にDr.カオスは頬を掻いて首を傾げた。
「はて、ワシの脳も千年生きてきたせいか、うまいこと動いてないからのう。」
しばらく唸って頭を捻ったり、掻いたりしていたが、Dr.カオスは何かを思い出したように掌を打った。
「・・・おぉ、覚えとるぞ。ブラドー侯爵じゃな。中世の頃、既に大吸血鬼と呼ばれていた夜を統べる王じゃ。」
「やっぱり知ってるのか。」
「何しろ、中世でワシはあ奴を狩ろうとしていたからのう。奴を狩ることでワシの名誉は上がり、ワシは更に研究を充実させることができるはずじゃった。」
カオスは懐かしむような瞳を遠くに向けて、千年の年輪を皺として刻んだ顎を擦る。
「逃がしちゃったのか?」
「一族とともにどこぞへ雲隠れしおってのー。・・・実に見事な隠蔽結界だったんじゃろう。なにしろワシの特製センサーにも引っかからんかったしのー。」
俺の質問にもしみじみと懐古するような口調で返事をするカオス。
もはやカオスにとっては昔話なんだろう。
「おっさん、昔から詰めが甘いみたいやからなぁ・・。」
話を聞く限り、大体いつも最後で変なミスをするのだ。
このDr.カオスという男は。もちろん、そのミスがあるからこそ憎めない英雄といえるのだろうが。
「な、なんだと小僧!」
あ、さすがに怒った。
「だっていつもDr.カオスの昔話聞いてると、最後の最後で詰めを誤るじゃねーか!」
「ぬぅ、む・・・。その、なんじゃ、あー・・・・・。」
自覚はあるらしい、心当たりが多すぎて反論もできないってとこだろう。
「Dr.カオス・横島さん・紅茶が・入りました」
お盆に紅茶と手作りと思われるクッキーを乗せて台所から障子を開けて入ってくるマリア。
「さんきゅー、マリア!」
「おお・・マリア、すまんのう。」
部屋にお邪魔したときにも思ったんだが、普段の漆黒のコート姿しか見たことなかったから普段着を着こなしているのがなんか新鮮だ。
アンドロイドと知ってはいても綺麗だし、生きていると実感する。
仕草がどことなく人間臭い、とでも言えばいいのか?作り物という気はしない。
「小僧、マリアをじっと見てどうしたんじゃ?」
「横島さん・どうか・しましたか?」
いかん、じっと凝視していたようだ。
マリアとカオスから訝しむように見られている!?
「ん・・・あ、いや。マリアが普段着着てるのが新鮮だったからな、ちょっと。」
とりあえず正直に答える俺が好きだ。
「・・・小僧はホンットーにおねーちゃん好きじゃのー。確かにマリアはワシの最高傑作、そこらの娘共よりも完璧な美しさじゃが。」
呆れたように言うカオスだが、マリアのことを自慢することを忘れない。
「確かに、マリアって魂があるんだもんな。人間みたいなもんだよな〜・・・・。」
とか、考えてみるとマリアは本気で綺麗なのだ。
アンドロイドであるがゆえに完成された美しさを持っているというか。
「ノー・横島さん。・マリア・アンドロイド。」
当然のように白い肌は傷一つなく、きめ細かい。
顔の造形も隙がなく美しい。体系も理想的。
「マ、マリア〜〜〜ッ!!!」
耐え切れずに抱きついてしまう。
しかしやはりアンドロイド、伝わってくる感触は冷たい鋼鉄のそれだった。
女性の柔らかさどころか機械の無骨ささえ感じられてしまうのだが、それでも何故かあったかい気がした。
「横島さん?・何をして・いますか?」
抵抗するそぶりもなく、淡々と質問してくるマリアに、びみょーに罪悪感を覚える。
「え、ええぃ、小僧!マリアから離れんかい!!!」
Dr.カオスは怒鳴りつつ、必死で俺を引き剥がしてきた。
『そなたは、本当に・・・・。』
心眼が呆れたように呟く。
「お主とゆーやつは・・・。」
マリアを庇いながらぼやくカオスの浮かべている表情は俺にはよく理解できなかった。
そんなに俺のことを怒ってないのは確かだけどな。
「あ〜〜、えっとだな・・・・話がズレちゃったけど、頼みってのはさっき話してたブラドーのことなんだ。」
「ほほう?話してみぃ。」
「つまり・・・・・。」
ブラドーが復活して世界征服をもくろんでいることをかいつまんで話した。
それを聞いたDr.カオスはことのほか乗り気だった。
「面白そうな話じゃな。報酬とは言わんまでも旅費程度は出るんじゃろうな。」
「意外だなカオス。おっさんのことだから家賃のために報酬くらいは求めるもんだと思ってたんだけどな。」
俺がそう言うと、少年のように笑ってカオスは顎を撫でた。
お茶をすすって一呼吸置いてから口を開いた。
「なに、元はといえばワシの不始末のようなものじゃ。狩り損ねた相手を狩るのに報酬を求めるほどこのカオス、落ちぶれてはおらんわい。」
きん、こん。
カオスの言葉が終わるか終わらないかの瞬間に、玄関についている安物のチャイムがなった。
この間抜けな音が聞こえると、マリアはぱたぱたと玄関に急ぎ足で向かい、ドアを開ける。
「はい・どちらさま・でしょうか?」
マリアの背姿越しに見えたのは大家のおばちゃんだった。
「ああ、あたしだよマリアちゃん。カオッさん!家賃はどうなってんだい!!?来月までには払ってくれないと困るよ!!」
そう、Dr.カオスをある意味で美神さんよりも軽く扱うあの女傑である。
カオスのほうを見て、そう怒鳴り残してさっさと帰ってしまったのだが、カオスのほうは青白い顔で言葉を続けた。
「・・・落ちぶれてはおらんのじゃが、その、なんじゃ。ちょいと先立つものを貸して欲しいんじゃが・・・・・。」
今の出来事の間に、少年じみた様子などすっかりどこかにほっぽって、瞬時に老いさらばえたカオスは弱々しく言った。
「ああ、解った。家賃分くらいなら神父も出せると思う。そんなんでいいなら助かる。」
うむ。たぶん大丈夫・・・だと思う。
とりあえず1度教会に帰るか。
「じゃあ、助かったDr.カオス。夜もう一度細かい話をしに来る。」
「うむ。さらばだ小僧。」
「お気をつけて・横島さん。」
教会に一旦帰った俺は、おキヌちゃんたちと一緒に神父とピートが戻るのを待っていた
。
おキヌちゃんと飛鳥とタマモに、六道女学院の教師に雇われる約束をしていると話をしてみる。
「ふ〜ん、ヨコシマってたいしたやつに見えないのに。」
少し意外そうな、そして少し感心したようにタマモが感想を漏らす。
「そんなことないじゃん、横島の努力が実を結び始めたってことだ。妙神山ではがんばったもん。」
『うむ。こやつの集中力には目を見張るものがあった。』
自分のことのように自慢げに話してくれる飛鳥と心眼。
うんうん、俺の努力の甲斐あって・・・とうとう!!
念願の煩悩の境地、少女たちの花園に・・・!
「・・・うふふふふ・・・女学院・・・・・。」
つい、妄想の翼をはためかせ、めくるめく桃色の世界に突入してしまう。
「・・・・でもやっぱり、横島さんが女学院で働くのは・・・・。」
「人間界じゃ、即逮捕されちゃうわね。」
「・・・・やめたほうがいいかもな、女学院。」
『私も判断を誤ったかもしれん。』
四人――その表現が正しいかどうかは不明だが――の冷たい目が突き刺さり、ようやく正気に戻る。
・・・こんな精神的に寒い目にあうなら美神さんみたくツッコみを入れてくれたほうが、まだいいのに。
美神さん、今頃どうしてるんだろう。俺もおキヌちゃんもいなくて、大丈夫かな?
・・・・・・平気か。あの美神さんだもんな。俺たちなんかがいなくてもきっとケロッとしてるんだろう。
そんなことを考えながら雑談してる間にピートと唐巣神父も戻ってくる。
「ど、どうしたんだ!?ピート!」
すごくやつれているピートを見て驚いてしまい、大きな声を上げる。
「ピートさんはエミさんのところへ行ってたんですよね?OKもらえなかったんですか?」
おキヌちゃんがそう尋ねるが、『エミさん』というところでビクリと震える。
「いや、助っ人の了承は得たんですが・・・え、エミさんに迫られて・・・逃げるので精一杯でした・・・。」
コノヤロウ・・・逃げるだとぅ・・・。
「こぉ〜ほのぉほ〜やぁあろぉ〜〜・・・。女に言い寄られて・・・しかも逃げただとう!!!!!!!」
俺は一度も言い寄られたことなどないぞッ!!!!!!!
見た目の差だというのか、ヂィグジョ〜!!!
「う、うわああああ!?血の涙!!」
怯えてるピートが唐巣神父の後ろまで後ずさる。
「よ、横島さん・・・?」
「ヨコシマ・・・・。」
あ、おキヌちゃんとタマモも引いてる。
飛鳥は怯えてるピートを見て小さく笑っていた。
「よ・・・横島君、とりあえずその辺にして置きたまえ。」
唐巣神父が冷や汗を掻きながら止めてくる。
いろいろとお世話になっている神父を困らせるのはよくないので、おとなしく止まる。
ぐぐぐ・・・・美神さんがいたときは自制なんていらんかったのに・・・!!
「私のほうは美神君と話をつけてきたよ。」
美神さんがただで動くとは思えん。
エミさんは聞いた話から察するにピート目当てでついてきそうだが・・。
「美神さんに払う報酬なんてあったんですか?」
唐巣神父が答えるかわりに困ったような表情でピートに目を向ける。
「僕が島から持ち出してきた純金の像を使ってもらいました。
島が貧しくなってしまいますが・・・・それでもブラドーのせいで滅びてしまうよりは・・・。」
ピートは島の今後を考えて頭を抱えた。
「た、大変やな〜・・・それっていくらなんだ?」
貧乏か・・・・た、他人事ではないぞ。
美形は敵とはいえ、ここは素直に同情しておく。
「おそらく・・一体20億はくだらないかと・・・・。」
に・・・20億・・・・・・・・美神さんも、それだけあれば喜んで助太刀するだろーな。
「すみません、先生。もともとあれは先生にお支払いするはずだったのですが、僕の島にはあれ以上払えるものがないのです。」
申し訳なさげに言うピート、くぅ・・・泣かせやがるぜ・・・!
「気にすんな、ピート。俺達にゃ報酬なんていらん!ね、唐巣神父!」
ピートの肩を叩いて言い、唐巣神父に同意を仰ぐ。
「そうとも、気にする事はない。迷える子羊を救うのが私の使命だからね。」
人がいい笑顔で唐巣神父が同意する。
ええ人や・・・・美神さんじゃ絶対ありえへんからなぁ。
『美神殿という人はいったいどんな人物なのだ?聞いている限りでは信じられない強欲な守銭奴のようなのだが。』
心眼のその感想は限りなく真実に近く、俺も含め本人を良く知っている人は後で美神さんに怒られるのが嫌なので押し黙ってしまう。
「俺のほうも、冥子ちゃんもDr.カオスも手伝ってくれるって言ってました。」
そ、それはそれとして・・・こっちも報告をしとかないとな。
「おお、よくやってくれたね、横島君。」
「冥子ちゃんは友達からのお願いってことで手伝ってくれるそうです。カオスには家賃分の報酬を払うって事で話はつきました。」
「そんな好条件だとは思わなかった。いや、本当にご苦労だったね。・・・さて、空港に小型旅客機の手配をしなければな。」
『・・・美神殿はそんなに酷い人物なのか・・・・・。』
し・・・神父!?それってこの前の除霊の依頼料をはたいてってことか。
心眼の言葉は意図的に流されているのは言うまでもない。よし、なかったことにしよう。
タマモを除霊したことになってるから依頼料はちゃんと貰えたし、結構な額だったりもしたんだが、どうやらそれともお別れのようだ。
グッバイ、俺の諭吉さん達(給料)・・・・!!
雲ひとつない抜けるように蒼い空のうえで、福沢諭吉が歯の光るような微笑を浮かべ、すっと消えていく。
あくまでも俺の中で、だが。
「・・・いいさ、まだ俺(財布の中)には漱石君がいるから・・・っ!」
最近、漱石君とは割と懇意な関係である。
美神さんのとこにいたときは、そうでもなかったかな・・・・。
「・・・・漱石君って誰?」
俺のほうを見ていたタマモが振り返っておキヌちゃんに聞いている。
む、なんだか面白そうなので忙しそうに準備をしているピートと神父の傍から離れ、タマモ達を見ていよう。
「え!?・・・あの、実は私も知らないの・・・。」
ドキッとしたような表情になり、次第に恥ずかしげに答える。
「はは、漱石君っていうのは千円札のことじゃん。」
飛鳥が苦笑いしながら二人に教える。
「あ〜、あの紙のお金に描いてあるおじさんは漱石さんってゆー方なんですね!?」
「そう、今の時代のお金のことなの。」
素直に感心しているおキヌちゃんと、冷静に納得したのか漱石君から興味を失ったタマモ。
幽霊と妖怪と魔族・・・・一番常識があるのは魔族の飛鳥だった。
「横島、今千円くらいしかなかったのか?」
「あ、ああ、いや、三人分の生活費、まだあるかと思って・・・、この前のバイト代から一万円俺の小遣いにしたんだがまずかった!?す、すまん、もうしないから許してくれッ!」
「別に責めてるわけじゃないじゃん、それだと学校の購買じゃ辛いだろ?学校の弁当くらいなら私達で用意するよ。」
三人分の生活費とはちょっと前に冥子ちゃんを手伝った時に貰った報酬と妙神山でのバイト代を口座にまとめてあるものだ。
現在、俺と俺の隣の部屋のおキヌちゃんと飛鳥とタマモは生活費を共有している。
バイト代を貰えるのは俺だけでもあるので仕方がない。
三人分というのはおキヌちゃんは生活費をほぼ使わないからだ。
せいぜい、たまにお線香を買うくらいである。
ちなみに生活費を管理しているのは飛鳥であり、最近は人間の俺よりも常識人なのだ。
食事はおキヌちゃんと飛鳥の当番制だったりするのだが、買い出しは飛鳥がやっている。
「いいのか、飛鳥!」
「朝と夜に皆の分作ってるんだから昼が増えてもあまり変わらないじゃん。」
照れているのか、飛鳥は頬をかきながら目を逸らした。
「横島君、ちょっと準備を手伝ってくれないか?」
と、唐巣神父が呼んでいる。
助手らしく荷物を詰め込む手伝いでもしますか!!
こうして、ブラドー島に乗り込む準備は着々と進んでいくのだった。
『美神殿・・・・・どれほど恐ろしい御仁なのか・・・・。』
続く