チャーターした小型飛行機の中は、まさにGS勢ぞろいって感じだった。

「これだけ揃うと壮観やな〜・・。」

「心強いことこの上ないメンバーだね。」

「でも、どうみても戦いに行くとは思えないじゃん・・・。」

『いささか緊張感に欠けているな。』

美神さんは久しぶりに会ったおキヌちゃんと仲良く話してるし、エミさんは困っているピートにモーションかけている。
ドクターカオスはマリアを待機状態にしてから自分も寝てしまった。
タマモも子狐の状態で俺の頭の上で気持ちよさそうにしている。
確かに・・・・・・・・・すっげー緊張感がない。
それを見て気の抜けたコメントをこぼしている俺達もあまり緊張感があるとは思えないが。
あれ、緊張感のなさではおそらく・・・いや、確実に世界最強の冥子ちゃんがいない。

「この飛行機で〜〜行くんですか〜〜〜。」

外から聞こえる緊張感がない声。

「こ、この声は・・・。」

美神さんがギクッとしたように声を上げる。

「あ〜〜、令子ちゃんじゃない〜〜〜。」

「出たーーーーーーーーー!!」

「その言い方はとてつもなく失礼ッスよ、美神さん。」

苦笑いしながら美神さんの横で突っ込みを入れる。

「それじゃあ、また一緒にお仕事なのね〜令子ちゃん〜〜忠夫くん〜〜。」

冥子ちゃんが美神さんと俺の腕に自分の腕を絡めながら嬉しそうに笑う。

「ちょ、ちょっと冥子!」
「め、冥子ちゃん、呼び方変わってない?」

美神さんは苦笑しながら冥子ちゃんの相手をしていたが、決して嫌そうではなかった。
俺も全然嫌じゃなかったけどな!冥子ちゃん可愛いし!
眠ってるタマモをそっと俺の席に降ろして、と。

「それじゃー冥子ちゃん!俺とスキンシップを〜!!」
「やめんか!!!!!!!!!」
「ぐはっ!!!!!!?」

容赦ない美神さんのアッパーが宙を舞う俺のアゴを的確に捉える。
こ、これだ!!美神さんがいないとぼかぁもー・・・・。

「や・・・やっぱり美神さんの突っ込みは効きますね〜・・・。」

「と、とかいいながらなんで嬉しそうなのよアンタ!?・・・まさか!」

少し俺との間合いを離す美神さん・・・だが、これも俺の作戦のうち!!
間合いが開いたほうが突進力のあるセクハラが出来るのさ!!

「違いますって!・・・久しぶりだから、つい!みっかみさは〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!!!!!」
「ちょ!?・・・・ちょっ、やめ・・・やめんかぁ!!!!!!!!!!!」

さっきとは違い、今度はレバーを左フックで捻じ込むように打ち込まれた。
アゴを打たれた瞬間は天国のような一瞬を感じられるのだが、今度は永遠に続くような地獄の苦しみにのたうつ。

「ぐっはぁ!!!」

み・・・美神さん、あんたナイスやで・・・。
ぼ、ボディも・・・・・・突っ込みも・・・・・・。
そんな感じで、俺と美神さんは久しぶりの再会を喜んでいた。

「まったく、こんなんじゃアンタを雇いなおすことなんて考えないほうがいいわね。」

・・・・・俺の気のせいだったのかも知れん。

「そ、そりゃないっすよ〜〜!!!」

涙ながらに訴える俺の姿に、美神さんも心を開いてくれるはずだ!

「ええい、泣くな!鬱陶しいっ!!・・・解ったわ、私も鬼じゃないもの・・・。アンタが今度のGS試験に受かったら雇い直してあげるわ。」

心を開いてくれたかどうか、自分でもはなはだ疑問だが、一応譲歩してくれたのか?
いや、無理難題を吹っ掛けてるつもりなんだろうな、この人の場合。

「ほ、ホントッスか!?」

しかし、俺も元々受ける気満々だったんだ。
こいつは正に渡りに船な提案だとは思わんか!?

「ほほほ、受かれるものなら受かってごらんなさい!万が一、主席だったら時給1500円出してあげるわ。」

ふふふ、いいよったわ・・・この女。

『美神殿、私がいる以上横島は戦いを勝ち抜いていけるだろう。安心して欲しい。』

おお、心眼、いいフォローだ!

「な・・・アンタは・・!?」

美神さんって予想外の事態への適応早い割に、リアクションおいしいよなぁ。
とか、失礼なことを考えてんなぁ、俺。

『私は心眼。小竜姫により生み出された、横島に敵に打ち勝つ力を与えるものだ。』

よし、ナイスだ心眼!ここで俺が更にたたみ掛けて生まれ変わった横島忠夫を熱烈にアピールだ!!

「美神さん・・・俺だって、考えなしに受けて立ってるわけじゃないんスよ。」

俺の不敵な笑みに、美神さんも面白い、という表情を浮かべる。

「へぇ・・・、一体アンタは何をしていたっていうの?」

そういう美神さんの瞳が俺に次の言葉を促す。

「決め台詞もちゃんと考えてたんスよっ!!」

「あほかっ!!?」

「へぶぁ!!」

美神さんの肘が俺の顔にめり込む。
く・・・・俺はもうダメかもしれん・・・。
だが俺の決め台詞は・・・『俺の名前は横島忠夫!地獄に行っても覚えとけ!!』だってこと・・・俺が地獄に行っても覚えとけ・・・。




GS〜彼の追った夕陽〜
第9話 極楽愚連隊、西へ。




周りの五月蝿さで徐々に起きつつあった私が完全に目を覚ましたのは、酷く不細工な悲鳴が聞こえたからだ。
その後、先ほどまでの五月蝿さが嘘みたいに静かになったから、少し目を開けて見る。

「・・・・やっと静かになったワケ?全く、夫婦で仲良くするなら別のとこでイチャイチャして欲しいわ。」

そう言ったのは浅黒い肌の女性・・・確か、小笠原エミって名前だったはずだわ。

「だ〜れ〜がぁ〜、夫婦ですってぇ?」

物凄い形相をしている髪の長い女性は美神令子、ヨコシマの元の雇い主ね。
二人に限らず、この飛行機に乗ってる女性は美女ぞろい。
ヨコシマが五月蝿かったのも納得ね。
当のヨコシマは・・・・やっぱり気絶してる。
私はぎゃあぎゃあ言い争ってる二人を横目にヨコシマの横まで歩いていき、人間の姿をとる。

「ば、ばけた!?」

「妖孤だったわけ?」

言い争っていた二人が同時に驚く。

「はっはっは、実はそうなんだよ、美神君。」

「彼女はタマモちゃんって言って・・・。」

私も挨拶したほうがいいのかな、ヨコシマも人間の社会で暮らすんだから常識は守ったほうがいいって言ってたし。
とりあえず、神父とおキヌちゃんが私のことを紹介してるみたいだし・・ヨコシマを椅子に座らせてからでいいよね。
でも、ヨコシマ・・・重いなぁ。

「がんばってるじゃん、タマモ。手伝うよ。」

急に引っ張るのが楽になったと思ったら、もう片方の手をハーピーの飛鳥が引っ張っていた。

「・・・ありがと。」

二人でヨコシマを椅子に座らせて、美神令子のほうに歩いていく。

「美神、久しぶりじゃん。」

「あら、飛鳥じゃない、久しぶり。そっちはタマモ・・だっけ?私は美神令子よ、よろしくね。」

「私は小笠原エミ、よろしく頼むワケ。」

「よろしく。」

この連中は私が妖孤だと知っても大して動揺しない。
それは私のおぼろげに戻りつつある前世の記憶から考えても珍しい事だった。
GSはいわゆる退魔師ということらしいけど、私が妖孤でも祓おうとはしないらしい。
それどころかヨコシマに至っては祓われそうになってた私を助けてくれたし・・・・。

「聞いてよ、飛鳥。この前、ママが過去から来たんだけどさぁ。」

「美神美知恵が?・・・ああ、昔一度行方をくらましたのはこの時代に来てたってことなのか!」

「そうそう、それですっごい深刻な顔してこっちに来て、昔の私を私のとこに預けて過去に戻ってっちゃったの。」

「で、その後過去で私を封印して一度こっちに戻ってきたってことじゃん?」

「そうなのよ、それで『とりあえずは封印しましたが、いつかあなたの前に魔族の刺客、ハーピーが現れるかも知れません。』とか言ってたから、逆に言ってやったのよ。  ハーピーなら唐巣神父のところで平和にやってるわよ?って。」

「プ。・・・美神美知恵がどんな表情を浮かべてたか見てみたかったじゃん。」

「見たら笑っちゃうわよ、鳩が豆鉄砲食らった表情ってあのことを言うんでしょうね。」

飛鳥から聞いた話だと、飛鳥は美神親子の敵だったはずなのにあんなに仲良さげに話している。
こうなるきっかけを作ったのもやっぱりヨコシマだという、やっぱりヨコシマは不思議だ。

「こんぺいとう、持ってきたの〜、あなたも〜いる〜〜?」

「・・・うん。」

そんなことを考えつつ、二人が会話に華を咲かせている横で私とショートボブの女性―六道冥子という名前だったはず―は地味に親交を暖めていた。
ちなみにエミは、パイロットに正確な島の所在を教えに行ってたピートが客室に戻って来るや否やピートのところに歩いていった。

「私は〜〜六道冥子っていうの〜〜。あなたは〜?」

こんぺいとうを食べる私を嬉しそうに見ながら、冥子は私に自己紹介する。

「タマモよ。」

私も自分の名前を言う。

「タマモちゃん〜、よろしくね〜〜。」

「よろしく。冥子、こんぺいとう・・ありがとう。」

私の腕を両手で包んでぶんぶんと振りながら言う冥子に、私もこんぺいとうのお礼を言う。
お礼を言うのは照れくさい、前世の私はどうだったのだろう。

「まだあるのよ〜〜。一緒に食べましょ〜。」

「あ、ありがとう・・。え!?」

突如聞こえた異音に、窓の外を見ると、黒い靄のようなものが空を埋め尽くしていた。
いや、それは黒い靄なんかじゃなくて・・・。

「「「「こうもり!?」」」」

あちこちからほとんど同じタイミングで異口同音にそんな声が聞こえる。

「しまった・・・昼間だと思って油断した!!」

そして窓の外を流れていく二人のパイロット。

「げ!?」

「パ・・・パイロットが逃げた・・・!?」

「み、皆さん落ち着いて!!」

「落ち着いてる場合じゃないでしょっ!!」

パイロットというのは昔で言う船頭や御者のようなものらしい。
やはりそれが逃げたというのはまずいことなんじゃないだろうか。











「あ〜、心眼。」

『なんだ、横島?』

「これってやっぱりピンチだよな。」

『現実逃避か?確かめるまでもなく、この不測の事態は我々に危機をもたらしてるぞ。』

「やっぱりか〜〜〜!!!!!!も・・・・もうあかん!こうなったら美神さん、死ぬ前に一発!!!」

「だぁぁあほ!!!!!!!!!」
「ごげっ!?」

『無様だな・・。』

あかん、墜落する前に死ぬ。

「そんなことやってる場合じゃないワケ!どうすればいのよ、コレ!!」

「飛鳥君!飛んで機体を支えられるか!?」

「あたしだけじゃ支えきれないじゃん!」

「私も変化すれば飛べないことはないわ。それでも機体を支えきれるとは思わないけど・・・・・。」

「僕も飛べます!僕はヴァンパイアハーフですからそれなりの飛行能力は・・・!!」

「三人ともお願い、はやく!!」

美神さんの指示で三人とも機体を支えにかかる。
こういうときの美神さんは本当に頼りになる・・・・いや、さっきよりはだいぶマシになったが、これでは時間の問題なのではないだろうか。

「うそ、支えきれてない!?どうすればいいのーー?!」

美神さんが頭を抱えてしまった。そりゃあ、もう八方塞がり・・・・

「ワシに任せておけ。こんな時のためにマリアの脚にジェットエンジンを搭載してある。凄まじい馬力で飛行することが可能じゃわい。」

自信満々に提案するドクターカオス。
そりゃすごい。すさまじい馬力で飛行できる。しかしジェットエンジン。しかも足の裏にだけ。

「って、カオス!それじゃ飛べても支えるのは難しくないか!?」

どう考えたって自分の体勢を保つだけでも四苦八苦する気がしてならない。

「・・・ぬかったわ・・・!!」

実際ジェットエンジンをこんな小型化して搭載できることがすでに天才的なんだが、Dr.カオスはやはりどこかでぬけているというか。

「ああ、もう使えないわねッ!!」

ガン、と飛行機の床をヒールで蹴っ飛ばしながら美神さんが毒づく。

「とりあえずワシはこの飛行機を操縦できるか試してみるわい!!」

カオスはそういって操縦室へ向かっていった。
・・・落ちたら死ぬんだよな、いかん、死にたくね〜〜〜〜!!!!!!!!

「ど、ど〜しましょ〜・・。」

冥子ちゃんの泣きそうな声が聞こえてくる。

『横島。冥子殿の式神ならなんとかなるのではないか?』

落ち着いた心眼の声が俺を一気に落ち着かせた。頼りになるじゃねーか、相棒ってば。

「!そうだ、冥子ちゃん・・・頼む、式神で機体を支えてくれないか?」

『む、無理よ〜・・・怖くて、このままじゃ私、他の式神の制御も〜・・・。』

もっと泣きそうになる冥子ちゃん。影が不安定に蠢いていることが式神の暴走を予感させる。
冥子ちゃんの性格を忘れてたッ!!あかん、やっぱどうしようもないかもしれん!!
そのとき、エミさんがいきなり冥子ちゃんの頬を張った。い、一体なにが!?

「落ち着くワケッ!!冥子、おたくしかできないのよ。おたくが頑張れば、私も令子も横島も、みんな生きて戻れるワケ、おたくならできるわ。」

冥子ちゃんの肩に正面から手を乗せて、エミさんがそう励ました。
なんだか意外だけど、エミさんのこういう姿はすごく自然なような気がする。

「あんたは天才の家系、六道家の次期当主なのよ?あんたはこの中じゃ最高の天才よ、私を除けばね!だから大丈夫。冥子がんばってちょうだい!」

そして冥子ちゃんの頭に手を置いて、美神さんも元気付ける。
なんだ、美神さんもいいとこあるじゃ――。

急なふらつき、明らかに機体は支えられていない。このままだと墜落して死んでしまう。
うおお、死にたないわい!まだ、ヤッてへんのに死んでたまるか!!

「冥子ちゃん頼む!俺たちを助けられるのは冥子ちゃんしかいないんやッ・・ああっ、死ぬのは嫌〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

俺を見た美神さんとエミさん、そしてみんなの冷たい目。
仕方ないやろっ!?死にたくないもんは死にたくないんじゃ!

「・・・わかったわ〜〜、わたしがんばるわ、令子ちゃん、エミちゃん〜!・・・大丈夫よ、忠夫くん〜わたしが助けてあげるわ〜!」

冥子ちゃんの声には静かな決意があって、すごく安心できた。こんなに力強い彼女の声は聞いたことがない。

「シンダラ〜!!」

冥子ちゃんの陰から出てきた式神が機外に飛び出す。
亜音速で飛行することもできると美神さんが言っていた式神が機体を支えると、機体は目に見えて安定する。

「お、おもい・・・・・。霊力がなくなっちゃうかも〜・・・・。」

「唐巣先生!エミ!・・・ついでに横島クンも!冥子やみんなに霊波を・・!!」

全員で機体を通して外でがんばってる連中に霊波を送るのだが、やっぱり俺の霊波は目に見えて弱い。
もっとも霊波が強いのは唐巣神父。美神さんとエミさんはほとんど変わらない強さの霊波を送っている。
いや、俺も直接支えてみるのはどうだろうか。俺のサイコキネシスでこの機体を「持ち上げる」こともできるはずだ。
集中して機体全体を引っ張り上げるような思念を送り出す。先ほどよりも期待が安定しだした。
冥子ちゃんのキツそうな顔も和らいできて、安心かと思われたときだった。
ものすごい突風が機体を揺らす。やっと安定したってのに!!

「もう、みんな限界に近いのに〜・・・!!」

苦しそうな冥子ちゃんの声に、俺なら応えられる。
霊波も弱く、役に立たなかった俺だが、今なら俺にしかできないことができる。

「避風!存思の念、災いを禁ず!突風よ退け!!」

手印を結び、韻を踏み、空に印を切り、言霊により風を禁ずる。
今は失われた言霊も、平安の世では広く使われた凡庸な霊能力だった。
風はまったくなくなり、機体は安定する。
霊波が弱くても、美神さんほどの才がなくても、できることがあると俺は確信した。

「な・・・横島クン?・・・いまのは・・・。」

驚いたような視線でこっちを見ている美神さんに照れくさくなって鼻をこすった。

「へへっ、俺もやるときゃやるんスよ、美神さん。」

言い終わるか終わらないかのうちに、エミさんが俺の肩をポンと叩く。

「横島も少しはやれるようになってきたわけ。見違えたわ。」

「忠夫くん〜ありがとうね〜、私〜すごく助かったわ〜〜。」

「――そうね、その力があればGS試験もなんとかなるかもしれないわね。」

おおっ!!この三人が俺のことを認めている!?

「・・・美神さん、エミさん、冥子ちゃん!それは俺に対する告白としかっ!!」

じゅってーむ。
華麗なルパンダイブはかわされ、美神さんとエミさんにどつきまわされる。

「これがなければ、彼も立派なのになぁ。」

『うむ、無様。』

嘆くように呟く神父と俺の額の上からその呟きに同調する心眼。
ちくしょー、ほっといてくれっ!!

「ミス・美神。Dr.カオスが・機体の・制御に・成功しました。」

戻ってきたマリアが美神さんに報告した。
やったのか、Dr.カオス・・・これで俺たちは助かるんだな。

「・・・嘘よね?」

と、美神さんがとんでもないことを口走る。
どうも美神さんの中ではカオスの評価が著しく低いようだ。
まぁ、美神さんの身体を乗っ取ろうとして、あんなアホくさいミスしてしまったんだから仕方ない気もするが。

「ノー。ミス・美神。」

ゆっくり首を振るマリアの様子からするとどうやら冗談ではないようだ。いや、この状況で冗談というのも笑えないのだが。

「Dr.カオスなのよっ!?」

いまだに現実が受け入れられないようで、美神さんは頭を抱えている。

「いや、美神さん・・・天才、ヨーロッパの魔王っすよ、Dr.カオスは。」

仕方ないのでフォローを入れてみる。

「でも今はボケ老人でしょ、うまく行ってるとなんか騙されてるような気持ちになるのよ!」

だめだ、この人の中ではカオスはただのボケ老人でしかないらしい。

「そんなこと言い合ってないで、さっさと疲れて戻ってきた面子に感謝するワケ。」

うおっ!!いつのまにかみんな戻ってきてる。

「・・・横島、私たちに言うことあるんじゃないの?」

タマモ。

「労いの言葉くらい、かけてくれたっていいじゃん?」

飛鳥。

「そうよ〜、令子ちゃんも忠夫くんも〜〜、私たち疲れてるのに〜〜。」

冥子ちゃん。

「二人とも元気そうですね・・・・。」

そしてピート。四人の冷たい目線に俺と美神さんは謝ったりお礼を言ったりしつつ、無事に到着できそうなことに安堵するのだった。






島への着陸は恐ろしく派手なものになった。森に突っ込んでいなければ、死んでいたかもしれない。
そんな着陸をして見せたのだからどうせ見つかっているのだろう。それならば夜には攻めてくるのは疑いようがない。
とりあえず拠点を作り、夜明けまでそこで応戦。夜明けを待って反撃することになるやいなや、朝までの拠点となった家の中はとたんに緊張感がなくなり、大騒ぎが始まった。

「あ、小僧!!ソーセージは一人三つまでといったじゃろう!?」

「けちくさいぞ、Dr.カオス!!!大体オイボレなんだからそんなにカロリー取ったら毒だろう!!」

「黙れ小童、おぬしは役立たずなんじゃから死なん程度に飢えとればいいんじゃっ!」

「Dr.カオス、食べ過ぎると・体調を・崩します。」

Dr.カオスと横島さんはソーセージを取り合って騒いでいる。
マリアもDr.カオスをなだめているものの、楽しそうだ。表情は変わっていないのだけど、そうと解る気がした。

「五月蝿いわよ、あんたたち!少しは静かにできないの!?」

ワインを楽しんでいた美神さんが横島さんたちを怒鳴りつける。

「おたくも十分に五月蝿いわけ。少しは落ち着いたほうがいいんじゃないかしら?」

おなじようにワインを飲んでいた小笠原さんが落ち着いた声で美神さんに言う。
ん?・・・なんだか一瞬こっちを見たような・・。

「何ですって!エミ、もう一度言ってみなさいよ!!」

美神さんはあっさり怒りの矛先を変えて小笠原さんに怒り出す。

「二人とも、やめてくださいよー!仲良くしてください!!」

おキヌさんが二人の間に入ってなだめると、二人とも不満そうながらも何も言わずにワインをあおる。

「なんだか〜キャンプみたいで楽しいわ〜」

周りの様子を見守っていた六道さんがゆっくり食事しながら、そんな感想を漏らした。

「ねぇ飛鳥、この「うの」って何かしら。」

「ご飯が終わったらおキヌちゃんも誘ってやるじゃん!」

タマモちゃんと飛鳥さんはUNOというカードゲームをやる予定を立てている。

「すごい余裕・・・さすが唐巣先生が頼んだ助っ人だ・・・。」

いや、本当にブラドーなど大した問題にならないような気さえしてきた。
ブラドーの息子である僕、ピエトロ・ド・ブラドーでさえ不安で仕方ないというのに。

「ははは・・・・・はぁ・・・・。」

しかし、先生は力なく笑ってため息をついた。・・・正直に言えば僕もため息をつきたい気持ちでいっぱいだ。
余裕があるのはいいことかもしれない。でも、遊んでしまっているのはどうなんだろう。
不安にもほどがある、周囲の警戒くらいはしておくべきかもしれない。

「・・・先生、あたりの様子を見てきます。」

「気をつけるんだよ、ピート。何かがあったらすぐに私たちを呼びなさい。」

僕は先生に断って、この家屋の扉に手をかける。

「待て、ピート!」

意外にも、横島さんから制止の声が飛んできた。
彼の人となりを短いながら見てきたが、こういう局面で声をかけてきそうな人ではなかったはずだ。

「な、なんです?横島さん。」

「俺トイレ行きたいんだけど、安全そうな場所を見つけてくれないか?」

やっぱり・・・。そういうことだったか。
彼らしいといえば、すごく彼らしい気もする。
短い時間しか会っていないが、こうも親しみを持てる相手というのは稀有だと思う。

「わかりましたよ、それじゃ行きましょう。」

本当に、同年代の――気を許せる友人というものに対しては、こんな感覚をいだくのだろうか。









「ふぃ〜・・・。わはは、景気よく出るもんだ。ピートは出しとかんで平気なんか?」

家屋の裏の森の縁に盛大に流れ落ちる華厳の滝。なんと雄々しく優美かつ洗練された自然の造形美よ!
華厳の滝の水源であるとこの俺はあまりの勢いの良さに気をよくしてピートにも話を振ってみる。

「・・・い、いや、僕は大丈夫です・・・・。」

ち、つまらんやつだ。まったく、連れションが男の友情を深める儀式だと知らんのか。
と、森の中から何かが盛大に動く音が聞こえてくる。

『横島!!森の中にヴァンパイアが多数潜伏しているぞ!!!』

突如としてバンダナに開いた心眼が森の中で動いてるものの正体を告げた。

「な、なんだ!?」

そんなん言われてもどーせいっちゅーんじゃ!

「ブラドーの配下の襲撃!?横島さん、下がってください!!」

ピートが霊波を発しながら、俺に後ろに下がるよう促してきた。
そんなことを言われてもなっ!!!

「無理にきまっとるやろっ!!まだ出てるっちゅーねん!!!そんな簡単に止められるかアホーーーーーーーーーッ!!!」

い、急がねばっ!お、落ち着け、俺ッ!!!

「よ、横島さん!危ない!!」

俺に飛び掛ってくる吸血鬼を指してピートが叫ぶ。俺の横で吸血鬼たちとの戦闘を繰り広げているピートはそれでも限界だろう。
くそっ、確かに危ない。下手をすればズボンに引っかかる。
・・・クソッ、ピートは俺を助けるなんてことはさすがにできないっぽいな。

「頼むぞッ!心眼!!!」

『やれやれ。そなた、少しは悪いと思っておるのか?』

「思ってるから、早く〜〜〜〜〜ッ!!」

『まぁ、よかろう。』

俺の必死の訴えはバンダナに届き、だるそうな声が額のあたりから聞こえるのとほぼ同時にバンダナに開いていた心眼が、俺を引き裂く寸前の吸血鬼を霊波光線で吹き飛ばす。
その隙に俺は事を済ませて社会の窓を閉め、両腕に『栄光の手』を展開する。

「やっちゃる!!」

両方を霊波刀の形に固定し、油断なく構える。

「横島さん、殺さないでください、彼らはブラドーの支配を受けているだけなんです!!」

何人もの吸血鬼を相手に戦ってるピートからそんな言葉がかかる。
――あいつはどうやってこっちを見たんだ?
ピートの眼の焦点は中空に定まっている。なるほど、そーゆーことやったんか。
周辺視野とかいうのを聞いたことがある。眼の焦点を合わせなくてもその周囲にあるもの全てに視線を向けず意識だけを向けるとかなんとか。
できる自信はないが、できたらきっと便利だ。
く、こんな事考えている間にも敵は次々やってくる。考えながら霊波の剣を振るうのも疲れてきた。
ピートの戦い方、俺が参考にできそうな部分は取り入れて、少しは楽にならんもんか・・・!?
右と前方から攻めてくる吸血鬼の姿を目端で捕らえ、霊波刀で薙ぎ払う。
これは予想以上に広範囲を見ていられる。結構いけるじゃねーか。

『・・・考えたな、横島!』

「ねーちゃんのいっぱいいるプールに飛び込まんうちは死にたかねーからな!俺だって工夫位するって!!」

今度はいっせいに・・・!?対応しきれんだろっ!!

「ずっこいぞ、お前ら!?おとなしく一人ずつかかって来いよ!」

『霊符だ、横島ッ!!』

心眼の声が耳に入った瞬間、俺は口を開く。

「そうか!急急如律令!!」

霊符がポケットから滑り出し、霊的な爆発を起こす。
急急如律令に乗せて霊符の力に指向性を持たせ、吸血鬼たちを爆風にまきこむ。

「どうせ大して効かないだろうが!!」
指向性を持たせるのにも霊符自身の力を使うため、霊符そのものの力はガクッと落ちている。
『うむ。だが、この隙は勝敗を決するに十分だ。』

爆発から身を守るようにしていた吸血鬼たちにサイキックソーサーを連続してブチ当てた。
当たった瞬間に血が舞い散るが死にゃしないよな、多分。
いや・・・・それどころか吸血鬼たちは倒しても倒しても起き上がってくる。
全てが全て、何もできずに倒れていくばかりではない。
俺の身体にも大小の爪痕が刻まれてきた。

『さすがは夜族といったところだな。』

言葉とは裏腹に心眼の口調からはうんざりしたものがありありと感じられる。
その感想にはまったく同感だ。しつこいったらありゃしない。

「夜の吸血鬼は強力です、気をつけてください!!」

自分も何体もの吸血鬼を相手取りながらこちらを気にかけているピートがそう忠告してくる。

「そんなん、今イヤってほど実感しとるがな。」

愚痴りながらも動きは止めずに反応していく。
飛び掛ってくる吸血鬼に霊符を飛ばし、距離をつめてくる吸血鬼たちを剣で払う。
ええい、くそ!!どの程度の力で斬ればいいのか・・・・・・!!!
つい遠慮しちまって、うまく剣を振るえてないじゃねーか・・・。
それでもこちらの傷は徐々に増えていく。不思議なことに、痛みは感じなかった

『後ろにも回られたぞ!』

「えぇい!!封魔!存思の念災いを禁ず、魔よ退け!!」

勿論、その言霊に大した威力などないことは解ってる。俺なんかの言霊では封じられるわけもない。
少しの間動かないでくれればいい。俺が目の前の吸血鬼を斬り払う今この瞬間だけな。
そして振り向きざまに霊符を投げつける。起爆するまで待つ必要もない。
俺は次の吸血鬼にこの霊波刀を振るい始める。絶えぬ血陣に集中していく。
チリチリと焼けつくような熱さを脊髄に、身体についた爪痕に、身体中に感じる。まるで正気じゃない。俺は自分のこんな面を知らない。
ああ、思うにこの熱さは快楽じゃない。実感の伴う限界はその場で俺の命を奪うだろう。
限界をごまかすための熱さなんじゃないだろうか。それとも、俺の感覚がもうおかしくて痛みを熱さに感じてしまっているのか。
もう筋肉も限界に近い。霊力も切れかけている。その極限で闘いは続いていく。
力が入らない身体はそれでも相手を倒すことができるような最適な動きを模索する。
集中すれば相手から漏れる殺意、攻撃の意志を感じ取れる。次にとるべき動きが解かってきた。
避けきれない攻撃はサイコキネシスで弾き飛ばすことで消耗を軽くする。
数えきれない試行のなかで徐々に無駄がなくなっていくのを感じる。
だが、それも有限。いかに動きから力を抜こうが超能力を併用しようが霊力は消耗していく。

「くっ、まだ誰も気づかねーのか。・・・・足音!?美神さんたちが来たのか!!」

――安堵。・・・これで・・・。

『最後まで気を抜くな、横島!!』

そうだった。まだ戦いは終わらない。どの程度手加減すればいいかはようやく見えてきたところだ。
未だに動く吸血鬼は二十を超えており、次々とこちらに向かってくる。

「ッ!美神君!!我々も早く加勢を!!」

「え、ええ、解ってるわ!」

「美神さん!!こいつらは殺しちゃ駄目ッす!!操られてるだけだそうです!!!」

言いながら、両腕の霊波刀で次々と襲い掛かってくる吸血鬼を斬り倒す。
この程度なら死なんだろう。第二陣に霊符を飛ばし、隙をついて何人かを昏倒させる。
美神さんたちも本格的に戦闘に加わり、戦況は容易にひっくり返った。
適切な加減で振るわれる美神さんの神通棍は確実に一体ずつ吸血鬼の戦闘力を無力化していく。
飛鳥にしても神父にしてもエミさんにしても相手を殺さない程度に意識を刈り取る手段を取っていた。
タマモや冥子ちゃんだって俺ができないような方法で無力にしていっていた。
・・・俺は、それさえもまともにできなかったってのに・・・。
これが、一流のGSの強さってことか。戦うようになったからこそ、その強さを実感できるようにもなったんかもしれん。

『動きが止まっているぞ。・・・横島、落ち込むことはない。そなたは十分に強くなってきている。』

俺が美神さんたちに及ばないのは当然だ。でも、俺もよくわからんけど、悔しい。もどかしい。
そのよくわからない感情を抑えつけて、残った吸血鬼の鎮圧に参加する。
俺は皆に比べるとだいぶ手際悪く吸血鬼を無力化させていった。

続く
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