宵の暗さに包まれた空気の薄い泉のほとり。
霧がかったいばらの森で美しいお姫様は眠っている。
いばらの蔦で覆われた森の中で、泉のほとりに眠る姫のまわりだけは蔦が這っていない。
ぽっかりと不自然に、お姫様とその隣のひとりぶんだけ何もなくて。
そこに生えている草はまるで誰かがそこにいたかのように寝てしまっている。
眠る姫は誰もいないその空間を向いて、手を差し出すように置いて横たわっていた。
気のせいだろうか、その頬は涙に濡れているように私には思えたのだ。




そんな、見なくなったはずの夢をみた。あの夢をみたのはいったいどれだけ前だろう。
私のものではない、けれど私がみる夢。
忘れそうになっていた私が、どう後悔したところでなにも変わらない。
きっと、彼女はまだいばらの森にいる。
そうして、いばらの中で見ている夢で自分を覆い隠しているのではないか。
平凡で幸せなものに憧れて、辛さを隠したまま明るく軽いままの夢を生きている。
透けるような印象はきっとそのせい。起きたままみてる夢だから、大切なものと距離をとる。

――――――夢からさめてしまうから。夢からさめないでいられるように。

頬から顎を伝い落ちる水滴が、腕に零れた。
自分は独りきりで生きてられる程度には強いと思っている。
どんなときも冷静でいられる自信があるし、何事も努力すればそれなりにできる。
だから涙を流すようなことはほとんどなくて、私自身もそんな自分の強さが好きではない。
けれど、今確かに瞳からは涙が溢れてとまらなかった。それは、脆さを隠すように強くあろうとする彼女が悲しくて。
本当は脆くて弱くて繊細で、そしてきっと寂しがり屋。本当、私とは全然違う。
傲慢なのも承知の上で、彼女の力になってあげたいと思っていた。
だから、おせっかいって言われるのだわ。
けれど、この想いはあの子への親愛ゆえに起こりつづける。
私はきっと後悔しないようにおせっかいでいつづけるのね。

「聖・・・・・・・・」

呟いてみてこの想いが強まるのを感じた。会わなくちゃ。



会いたい。



私達は卒業してしまったけれど、会おうとして会えないことなんてないのだから。

それでも、私は一つ解らなかった。
この想いは何なのだろう。護っていてあげたい。助けてあげたい。大切なものの傍にいられるようにしてあげたい。
けれど、大切なものと距離をとるその姿に安堵もしていた。そうしている限り、傷つくことはないからなのかしら。
定義できないこの感情。それがはっきりしないから、私はこれも私の「おせっかい」なのだと思うことにした。


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